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思いやり

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「あっ!今の話聞いてた?」
 木村が慌てて訊いた。
「木村も居たのか。聞こえなかったけど、何か面白いこと云ってたのか?」
「聞こえなかったんだな?」
「ちょっと考えごとをしてたんだ」
「そうか」
 木村はほっとしたような顔になった。
「俺たち、これから飲みに行くんだけど、どうかな?堀川も」
「残念。これからちょっと約束があるんだ」
「そうなのか、じゃあ、今度」
「やっと信号が変わったぞ」
 三人はスクランブル交差点を急ぎ足で渡り始めた。
「約束って、誰と?」
 田辺のその問いに対し、堀川は「弟だよ」と素っ気なく応えた。その直後それぞれが別れのことばを口にした。二人とは別の方向に堀川は歩いて行った。彼は歩きながら考えた。水野美羽に惚れている男は、何人もいるらしい。美羽の人気は絶大なのである。そんな中で自分だけが幸福になっても良いのだろうか。
作品名:思いやり 作家名:マナーモード