思いやり
堀川は現在二十八歳で、美羽は二十三歳である。二人はその後急速に親しくなり、堀川は先週美羽にプロポーズして承諾された。結婚の日取りは来年の春にしようと、約束した。
「俺さあ、水野さんと付き合いたいと思ってるんだ」
果てしなく長い信号待ちの交差点でそう云ったのは、木村だった。
「でも、ライバルが多いと思うよ。俺だってそう思ったことがあるんだ」
「デートに誘ったりしたのか?」
「実は断られて諦めたんだ。彼女、あと半年の命なんだって」
「病気?」
「嘘だったって、あとでわかったんだ。確かに、彼女は優しい女性だよ。美人だし。でも、誰かと付き合ってるらしいんだな。残念だけど……」
「畜生。そうだったのか!悔しいなぁ」
「あれっ。堀川!」
田辺がなぜか振り返って云った。
「田辺。そこに居たのか」