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桜の頃

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     −4−

その後、和実は圭介の携帯番号に『モグラ』と名を付け登録はしたが、掛けるきっかけはないまま過ごしていた。
携帯電話にはあれ以来、ずっと《ネズミ》のストラップが揺れている。
学校の友人に「かっわいいー!どこで見つけたの?」と尋ねられることはあったが、とくにそれについては話すことはなかった。
以前と和実は変わらない。
いや、話して興味だけの話題にされたくないと思ったからだ。

圭介も日常の生活を送っていた。
朝7時、目覚まし時計に起こされて朝のシャワーを浴び、自分で洗った衣服を着る。
一応スーツでの通勤のため、クリーニング屋で仕上げられたスーツのズボンとネクタイを着て 背広を腕に掛け、
月極め5,500円の駐車場へと向かう。
アパート近くのコンビニで朝食らしきものを買う。
ほとんどはパックに入ったゼリー状の飲み物だ。
自動車はHONDAの若者に多いスタイル。
学生時代のバイトと子どもの頃からのお年玉などの貯金、そして就職祝いに身内から戴いたお祝いの金銭を頭金にして
購入した白ナンバーの愛車だ。
9時の始業時間より いつも30分早く出社し、自分の机に積まれた資料に目を通す。
入社したての頃、教育してくれた上司の教えだ。
その上司も昨年の暮れをもって定年退職されたのだが圭介の日課になっていた。
圭介は営業に出た社員の持ち帰った資料の打ち込みが主な仕事として任されていたが、時々デスクワークから外回りへと
出されることもあった。

その日も、社から出る機会ができた圭介は、少し回り道をしてあの公園近くを通ってみた。
(家に電話してみようか・・)
何度となく思いとどまってはみたが やはり気になってしまう。
(あんな格好つけなきゃ良かったよ。カズミちゃんっていくつだろう?あれ・・聞いてないや。社会人、学生、高校生じゃないよな。
中学!そりゃ犯罪だ。しまった、彼氏いるんだ。だから連絡なんて来るわけないか・・はは。こっちの事も何も聞いて来なかったし、
この辺りに住んでるみたいだけど、あの道からの死角でわかっちゃないし。はあー圭介、詰めが甘いぞ)
そんなことを漠然と考えながらその場を離れようとした時、道の向こうを歩く女の子が視野に入った。
「カズミちゃん?」
圭介は、自動車を移動させて近づいてみたが、人違いとわかるまでにさほど時間はかからなかった。
「重症かな。みんな彼女に見えてくる。」

新緑の葉の色もいっそう深くなった6月も半ばになっていた。

作品名:桜の頃 作家名:甜茶