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桜の頃

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     −15−

季節は移ろっても、圭介と和実の仲は、ずっと色褪せたままだった。
今年のふたりの誕生日もお決まりのメールだけで終わった。
夏も。
秋も。
そして、冬になっても。
ふたりのツーショットを雅斗は見ることができなかった。

圭介の社内の噂もやっと忘年会の頃、誤解が解けた。
もう・・・。

除夜の鐘から新年のカウントダウンは早いのに 置き忘れてきたものは時間を止めているかのように静かだ。

新年が明け、会社も仕事始めを迎えたある日。
圭介は外回りへ出かけるために最寄り駅へと向かっていた。
あちらから歩いてくる女性は、和実。
久しぶりに会った和実は、薄化粧をしていた。
「やあ、こんにちは」
「こんにちは」
「今、仕事?」
「いいえ、今日はお休みもらったの。」
「そうか。・・少し時間ある?」
和実は頷いた。
ふたりは、駅の裏手にある喫茶レストランへ行った。

「ホット」
「私は、オーレ」
お互いの注文が終わると、少し沈黙が続いた。
(落ち着け。聞きたいこと・・駄目になっても今よりマシ)
言葉を掛けようとした時、それぞれのコーヒーが運ばれてきた。
「砂糖要る?」
「今はもう要らなくなった。」
「そっか。和実も変わったんだ。」
「そっかな。わかんない。」
タイミングを逃した話を再びするのは結構辛いものだ。
「今、どうしてるの?好きなやつでもできた?」
和実が直視してすぐに言葉を返してきた。
「ひどい!好きなのは!」
その後下を向いて言葉は止まってしまった。
圭介は和実に尋ねた。
「将来、結婚願望はないのか?」
「無いわけじゃない。まだ考えられないけど。」
「じゃあ、セックスについては?」
さすがに小声になった。
和実も戸惑いが顔に現れた様子。
「和実。和実ももう大人と思うから僕もはっきり事を話すけど、ヒトは結ばれて汚れるんじゃないんだよ。糧になるんだ。
お互いの心がわかるようになったり、支えてあげたいと思うようになったり。快楽だけでするやつも居ると思うけど、僕は
それだけのために求めたんじゃないことは分かって欲しいな。和実を知りたいし、僕だって分かって欲しい。
6歳年が上だって頼りない時もある。淋しい事も。腹のたつことも。もちろん和実を守る事だってできるよ。
だから、考えてくれないかな。といっても、そんなにのん気な方でもないけど。じゃあ、仕事あるから行くね。」
圭介はレシートを取ると足早に店を出て地下鉄道への入り口に消えて行った。

残された和実はしばらく席を立てなかった。

作品名:桜の頃 作家名:甜茶