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桜の頃

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    −16−

そして、季節はまた春。
桜の花は今年も変わらず、この街を桜色に染めている。

あと数日で4月になろうとしていた。
和実の携帯電話に珍しい人からのメールが届いた。
[用件:圭介はロンドンに行くことになりました。4/5・PM14:25発ANA202便]

(えっ?今日?)
和実はとりあえず、バッグを抱え、家を飛び出した。
交通の時間も分からず、ただ空港に向けて・・。


「今日という日が明日に飲み込まれる前に。
明日という日が今日とならないうちに。
この恋の行方を見失わないように貴方の答えをきかなくては・・。」

和実は決心した。

空港に着いた和実は圭介の姿を捜した。
「かず?和実。どうしたんだ?こんな所で」
「圭介さんロンドンへ行っちゃうって」
「うん、今から行く」
「私、やっぱり貴方と居たい。だから私も連れてって」
「無理でしょ。仕事だし。あーーそれ誰に聞いた?知ってるのはあいつだけど」
和実は様子が違うことに気づき始めた。
「雅斗さんが。」
と壁の向こうから聞き覚えのある声がした。
「おふたりさん、何熱くなってるの。これが普通でしょ。」
「雅斗、おまえー」
「待てよ。俺は圭介がロンドンへ行きます。って教えただけだぜ」

海外は出張・・雅斗の作戦は成功を収めた。
結局1週間の別れとなった。
「帰国するまで俺が見守っておくよ。安心してお仕事してらっしゃい。」

「和実ちゃん、これ。」

手渡したものは小さな塊。
「あ、これ。可愛い。」
「《ネズミ》から《モグラ》ヘ」
和実は、握りしめた手にキスをした。
「あいつのより、いい出来だと思うよ。」
「ありがとう。」  

雅斗からの結婚祝いだ。


         【 完 】
作品名:桜の頃 作家名:甜茶