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桜の頃

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     −9−

春、4月。
圭介と和実が出会ってからまた桜の季節になっていた。

和実は学校で専攻していた勉強を生かし、出版社の事務に就職が決まって、毎日研修に追われていた。
出版社といってもさほど有名でも大手でもなかった。
だが、好きな本に携わる仕事は和実にとって楽しい期待でいっぱいだった。
そんな和実に会うのが圭介も楽しかった。

圭介の友人である雅斗から誘いが来たのは桜の木に新緑の葉が出始めた頃だった。
「和実ちゃんの就職祝いをやろう」
和実も二十歳(はたち)になっていたので、お酒も飲める店ですることにした。
店はもちろん圭介と雅斗の定番の居酒屋。
圭介の会社近くであり、和実の住む町の店だ。
「和実ちゃん、就職おめでとう。乾パーイ!」
こういう盛り上げが雅斗は得意だった。
「ありがとうございます。」
「無理して飲まなくていいからね。」
「おっと、圭介君、介抱するならふたりも居るんだよ。それに彼女が会社の新人歓迎会で変な上司に飲まされたら駄目でしょ。
練習しておかないと。ね。」
「そうですか?」
渋い顔をした圭介だが三人はほどよく笑った。

「あら、茂倉さん。ここで飲むことあるんですか?」
声を割り込ませてきたのは今年、圭介の会社に入社した女性・春日と一昨年、途中入社した女性・秋元だった。

この春入社だが、春日は4年の大学を卒業しているので 和実より2歳年上だった。
秋元は専門学校を出てから1年半ほど他社に勤めたことがあったので二人は同い年の22歳だ。
それで気も合うのだろう。
社内に居る時も仲がいい。
しかし、少し目に余るところもあって圭介は苦手だった。

「茂倉さん、お連れ様は?」と覗き込むように三人の座る席を見てきた。
「ちょっとお嬢様たち、今日はそっとしておいてくださいな。」
雅斗は丁寧にお断りを促した。
二人は顔を見合わせると奥の堀テーブルの方の席に座った。
「あ、さてさて、仕切り直し。和実ちゃんは何飲めるかな?ビール?日本酒?」
「あっ、ビールはちょっと駄目。」
「おやあ、これは味を知ってるってことですね。圭介、未成年者に飲ませちゃいかんだろ。」
「飲ませてないよ。ねえ」と答えつつも圭介はさっきの二人が気になる様子だ。
「じゃあ酎ハイってとこかな。圭介、選んであげろよ。」
結局、和実の飲み物は雅斗が選んだことになった。

2時間程 三人はそこで過ごした。
二人を気にしていた圭介も やがて気にならなくなって三人の話は盛り上がっていた。

「そろそろ、送って行こうか。」
立ち上がる圭介を雅斗は席に留めて入り口わきで会計を済ませた。
ずいぶん暖かくなってきたとはいえ夜はまだ冷えた。
店から出た三人は歩道をゆっくり歩き、タクシーを捕まえることにした。
歩き始めてから僅かな所でタクシーを拾うことができた。
圭介は、和実の家を運転手に告げるとタクシーは住宅の方へ向かった。

「じゃあまたね。おやすみ」
「ごちそうさま。おやすみなさい。」

タクシーは、マンション前から圭介のアパートへと進路をかえた。
タクシー料金は、圭介が払って下車した。
その日、(明日は日曜日)だからと雅斗は圭介の部屋に泊まることになった。

作品名:桜の頃 作家名:甜茶