潮風の街から
年中行事考≪お盆≫
新盆の行事に諷誦文(ふじゅもん)というのがあります。
諷誦文とは死者の冥福を祈って、三宝(仏法でいう三つの宝=仏・法・僧)への布施物や布施の意味を書いた文章のことで、施餓鬼の時にお坊さんが読経します。
わたしの住む地域には新盆を迎えた家に、親戚や故人の友人知人が「ふじ」を持っていくという習慣があります。
親戚など近いつきあいなら2千円、友人知人のつきあいなら千円ほど、小さな熨斗袋(今は諷誦文専用のも売っています)に入れて新盆の家に届けるのです。
いったいこの「ふじ」というのはなんなのだろうと調べたら、上記のような説明があり、もっていく「ふじ」に対しての説明が以下のようにありました。
──諷誦文料。九十九里海岸沿いから南房総沿岸地域で行われる、諷誦文に対してお布施をする習わし。諷誦(ふじゅ)がつまって「ふじ」となり、ふじだいともいう──のだそうで、今更ながら、このあたりだけの習慣なのかと知って、ちょっと驚きでした。
さて、今年(2010年)は仕事での大先輩であり、同級生だったNさんが亡くなって初めて迎えたお盆。
立秋前にこの諷誦文料を持っていくのが習わしなので、会社の人たちと行ってきました。
昨年の8月11日。「またね」といって笑って別れたのが、彼女の元気な姿を見た最後でした。
お盆の最終日に足が動かなくなったと言って入院。11月3日に帰らぬ人となりました。末期癌です。
会社では周りの人にそれとは悟られないように、仕事はばりばりやっていました。
朝礼が終わると「これから韓流ドラマの続き見るからさ」なんてうそぶいてさっさと会社からでていった彼女。
本当は苦しくてつらくて、早く横になりたかったのでしょうね。
毎月一回強い抗ガン剤を打って、短期入院の時は「旅行に行く」なんて言って休みを取っていました。
お嫁さんから去年の夏休みに入ったばかりの時のことを聞きました。
毎年、12日は花火大会です。孫と見に行く約束をして、楽しみにしていたけれど、足がもつれるといって、でかけるのを取りやめたそうです。
そして15日に入院。
「その時、お医者さんから『生きていること自体が不思議だ』と言われたくらい、ひどい状態だったんです」
改めて、彼女の強さに感銘を受けました。
そして、残る人たちが困らないよう、いろいろな手続きもして亡くなったといいます。
お盆は故人を偲ぶ機会でもありますね。
自分につながる先祖に思いをはせることもできますし。
昨年別れたきりの彼女の姿が目に焼き付いています。
あのときはそれが今生の別れになるとは夢にも思いませんでした。
一期一会
たった一度きりであった人も、いつも会う人も、その出会っている時は一瞬、その時限りです。
お盆を迎えて、人とのつながりの大切さを改めて考えました。