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CROSS 第15話 『せめぎあい』

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 先に犬走椛がシャトルから降り、その後に少佐が降りた。夜なの
で、誘導灯も無い滑走路は真っ暗だった。少佐は、この暗闇にまぎ
れて逃げようかと考えたが、すぐ後ろに、刀に手を伸ばした妖夢が
いるのを見ると、すぐにあきらめた。
「車に乗り換えです」
妖夢がそう言ったので、辺りをよく見渡してみた。よく見ると、前
方に、一台のリムジンが滑走路脇に止まっていた。暗闇にスモーク
ガラスなので、車内の様子は見えないが、気配だけは感じられた…
…。
 少佐は妖夢にこづかれながら、リムジンに向かって歩いた。あの
三姉妹はシャトルを離陸させて、どこかへと飛び去った。犬走椛は
足早に、滑走路沿いの道路に向かっていった。そこで、タクシーで
も拾うつもりなのだろう。

 少佐たちがリムジンの近くまで来ると、車のドアが自動で開いた。
その途端、ドアの向こうから冷気が漂ってきた……。少佐は思わず
身震いして立ち止まった。

「……あら、どうしたの?」

 車内から、女性の声がした。呑気な口調だが、聞いた者に恐怖心
を与えるような口調だった……。
「ほら、早く乗ってください。幽々子様を待たせる気ですか?」
妖夢は構わずに少佐の背中を押して、車内に押し込んだ。車内の気
温は低かった……。

 リムジン車内の座席は横向きの革張りソファになっており、そこ
に一人の女性が座っていた。その女性のすぐ近くに霊魂が浮いてお
り、水色系の不思議な服を着ていた。少なくとも、ただ者ではない
ことは明らかだ。女性は不気味に微笑みながら、少佐を見ていた…
…。
「……確か、白玉楼の西行寺幽々子さんでしたっけ?」
少佐は女性の顔を見て、即座にそう答えた。この女性も異次元中に
顔と名前を知られた人物の一人だった。
「ええ、そうよ」
西行寺という女性はそう言うと、少佐に座るように指示した。少佐
が座ると、妖夢がリムジンに乗りこみ、ドアが自動で閉まった。
 そして、リムジンは発車した。運転手の姿はバックミラーにうっ
すらと写っているだけだった……。つまり、幽霊が運転しているの
だった……。しかし、少佐はこういう常識外れのことには慣れてお
り、気にせずに、西行寺のほうを見て、
「実は、そちらの庭師さんといっしょにいたら、「異変」が起きて、
 今ここにいるんですが?」
少佐は嫌味っぽくそう言った。少佐の皮肉に、妖夢は彼を睨んだが、
西行寺は気にすることなく、
「……それじゃあ、今度からは穏やかに連行するわね。まあ、あな
 たにとって、「今度は無い」と思うけどね」
西行寺はそう言うと、クスッと不気味に笑った……。
 その途端、車内の気温はさらに下がった……。