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この雨が止む頃に

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 友達とくだらない話をして、好きな音楽の話をして。将来の夢や難しい数学の問題、もしも一億円が手に入ったら何に使うか、願いが三つ叶うとしたら何を願うか、人型ロボットが完成したらどんな法律で保護するのか。そんなくだらない話題で、いずれ来る未来を先延ばしにする。
 先延ばしが死ぬ直前まで続くように。
 先延ばしが死んだ後まで続くように。
 拓也は笑わないで話をして、
 知之は笑いながら話をした。
「現実ってさ、凄く簡単に夢を壊すよな」
「だからこそ夢が現実を壊したっていいと思うけどな」
「結構詩人じゃないですか、秋川拓也サン」
「いえいえあなたほどではありませんよ、竹井知之サン」
 すれ違う時間とか後悔とか。
 神様の悪戯は、今日はもうヤメにして。
「……サンキュ、拓也。俺、振られるかもしれないけど、もう一回先輩に告白してみる」
「ああ。もしも振られたら遊び行こうぜ。楽しいことも楽しくないことも全部やろう」
「……楽しみにしてる」
 他愛ないことでも笑い合える。
 そんな時間は、とうの昔に失ったと思っていたけれど。
 忙しすぎて、ただ気付かなかっただけ。
 目の前にある現実があまりに忙しなくて、見えないふりをしていただけ。
 誰だって友達とは笑って話をしたいし、少しだけ恥ずかしいような気持ちを抱くこともある。
 ただなんとなく、口にしないだけ。
 それだけだ。

■ □ ■ □ ■
作品名:この雨が止む頃に 作家名:名寄椋司