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かがり水に映る月

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10.硝煙の匂いが僕の決意を固めたんだと、今ならわかる(3/4)



言えば、英人は事情があったにせよ恋人を殺めた月を恨むだろう。葛藤の末に、それは秘められていた。
一人になるのが、怖かったのだ。
何よりも怖いものは、英人と同じ。
独りになること。

「ずっと、ずっとね……言えなかった……」
「月……!」
感極まり、駆け寄ろうとした英人の腕を強い力が掴み、阻む。
何事かと振り返ると、ずっと傍観者を気取っていた桂の姿がそこにあった。いつもよりずっと昏いまなざしが、英人を射抜く。いつも皇の後ろで無表情に立っている彼女が、ここまで意志(たいど)をあらわにするのは珍しい。
それは、不思議とひどく桂の美しさを増長させていた。息を吹き返した、とでもいうべきか。彼女はまだ生きている。
目的を達するべく、明日へ命を繋ぐべく、生きている。
明らかな睨みだった。すごむ英人だが、邪魔をするなとばかりに抵抗して睨み返す。
「貸しなさい」
「何を」
「銃」
「嫌だ」
「そう」

――皇が言うような冷たい声色をとらえると同時に、反転する英人の視界。
投げ飛ばされたのだとわかった時にはもう、遅かった。時間が止まらないように、全てが流れ続けてとめられなかった。
「さよなら」
倒れた英人が見たのは。
とっさに逃げようとした月の心臓を、違えることなく数発撃ち抜いた黒光りする銃と、それを手にした桂の姿。
ちりちりと焦げるような匂いとともに、月の姿が崩れていく。灰になっていく。
とうてい信じられない現象だったが、現実だった。崩壊は傷口から染み渡るように広がっていき、衣服は灰の熱に燃えた。
月の輪郭が曖昧になっていく。重ねていった思い出が、月の顔が、月の声が、喋っていた言葉が、全てが急速に過去へ向かう。
弱点を打てば灰と帰す吸血鬼の定めを、英人が知るよしもなく。
「月ッ!!」
桂を押しのけて、月を抱きしめた。
消えてしまわないように、強くこの世にとどめようと、抱きしめ――――
回した腕の内にある人の形は灰となり、崩れ落ちた。

少し前に時間は遡る。
やりとりを聞きながら、皇はふと口にした。
「潮時だな」
「え?」
「この先はお涙頂戴にしかならん。そんなんじゃ腹も膨れんし客がいたらブーイングの嵐さ」
「……」
言って、どうしようかと言いたげに首をかしげる皇。それが演技であり、この幕劇の演出であることは明らかであった。
答えを抱いているというのに、あえて自分という観客をじらしていて。
何と返せばいいのかわからず、沈黙する桂の手に、銃が渡される。
「だから」
皇は嗤った。
「幕を引くのは、主役に代わったお前さ。桂」


作品名:かがり水に映る月 作家名:桜沢 小鈴