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かがり水に映る月

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10.硝煙の匂いが僕の決意を固めたんだと、今ならわかる(2/4)



「……」
「何とか、言えよ……そうですとか、違うとか、まだ生きてるんだろ!!」
「……」
「死んじゃったら、認めることも否定することもできないんだよッ!! 丈夫なお前がこんなことで死ぬかよ!!」
「……そうよ」
ゆらりと、月が顔を上げる。
「真を殺したのは、私」
「……!!」
その瞬間、ひどく激昂する英人。まだ心のどこかで月が無罪だということを信じていて、否定してくれるものだと思っていた。
でないと、自分が信じてきた全てが崩れ去るからだ。


――おかしいな。
さっき撃った瞬間に、信じる気持ちなんて全部捨て去ったと思ったのに。


「でも、一方的な殺人じゃないわ。偶然会った、私と……真は、一つの約束をしたあと、命をやりとりした」
「約束?」
「何もできない自分の代わりに、英人のそばにいてやってほしい。そう、言って……た」
真は、血を吸わせた代価にそれを要求した。当事者しか知らないことであり、こればかりは誰も証明できない。
だが、だというのに。
だというのに、英人はそれを聞いてまたさらに涙の勢いが増した。
月が、やっと話してくれた。
病魔に冒され、ベッドの上に縛られていた真。彼女は常に、恋人である英人のことを心配していた。
自分がいなくなってもちゃんとやっていけているだろうか。そして、逆に自分が足かせになっているという屈辱。
すぐに病気なんて治ると思っていた。
だが、現実はそう都合よくは動かない。ベッドが柔らかな棺桶にも思え、自由のきかない程度は精神まで及んだ。
そんな矢先に、真は吸血する対象を求めて立ち入った月と出会う。
何度かの邂逅を経て、真は血だけではなく、命さえも明け渡した。月にあとの全てを託して。
「本当よ……私が殺した。全て、本当……否定できない……」
「そんな、お前、殺したって事実だけじゃ伝わらないことばっかり隠してたっていうのか……!?」
「だって、ほんとの、ことじゃない」
「それは殺したんじゃなくて、結果的に合意の上で死んだって……言うんだよ……」
「そう、なんだ……」

知らなかった、と月は困ったように笑う。
「じゃあ、英人に言ってなかったぶんも、もっと話したら……誤解、とけるかな」
「……」
「私の能力はね、言った通りだけど、鏡には本当の姿が映るの」
「え?」
「思い出して。出会ってすぐに、私の髪を切ってくれた時のこと。鏡に映った私の姿」
「あ……!」
愕然とした。
鏡にも、変わらない姿が映っていたのを覚えている。鏡は真実の姿を映す呪物だと、英人は知るよしもないが。
そして、月はこう付け加えた。
能力は自分の身体を離れると効果を失するため、切った後の髪は本物であると。
ただの黒髪としか共通点がないのかもしれない。それでも、そんな細かい事柄は今の英人の頭には入らない。


作品名:かがり水に映る月 作家名:桜沢 小鈴