コスモスの咲く頃
緊急脱出用の装備も使用条件を満たす環境が見つからなかったらしい。
そして地球で生きて行く為に地球の生活に溶け込んで、いつか自分が何者なのかも分からなくなっていた。
アイツは子供の頃、古い家の倉庫できれいに保存された古文書を発見して、研究を重ねてきた。
そして三年前、答えが見つかったアイツは会社を辞め、この地で準備をしていたのだ。
緊急脱出用装備の準備をだ……。
「それがあの花なのか?」
アイツが冗談を言うような人間でない事を知ってはいたが、だからといってそんなに簡単に信じられるような話しでもない。
話しの腰を折っても仕方ないのでオレは最後まで聞く事にした。
「そう言う事だ。昔は地球人もソレを知っていた。我が同胞は地球上の至るところに居たからな。あの花の名がコスモスってのはそのまんまの意味だって事なんだよ」
アイツは今夜発つと言った。
今夜と明日の夜が一年で一番条件が良いらしい。
どんな条件なのか興奮気味に喋ったが、最初の一言からオレにはさっぱり理解できなかった。
オレの持ってきた酒をアイツの造った料理で飲んだ。
料理は素朴だが中々のモノだった。
アイツもオレと同じ独身で、こんな山奥に暮らしているから、いつのまにか覚えたのだろう。いや、もしかすると若い時から得意だったのかもしれない。
とうとう一本を空けてしまったが、アイツは全く変わらない。まったく昔から人間離れした酒の強さだ……。
夜中の十二時を過ぎた頃、ヤツはオレを揺り起こし、何か話し掛けると、外に出ていった。