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空想科学省電脳課です。

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 ヘビーベイビーの製作者は、陽斗の見知った科学者であった。
彼を拘留した途端に、ヘビーベイビーの拡散が止んだことから、製作者自らが、己の能力を社会に誇示するために、引き起こした事件として立件された。
しかし、彼の責任能力の有無が、裁判では大きな焦点になるだろう。
彼もまた、ヘビーベイビーに感染し、更に、及川プログラムに精神を上書きされている可能性があったのである。

 及川プログラムは、その名の通り、及川氏が一九九八年に開発したウイルスで、現在、その雛形は残っていないとされる。及川プログラムと判明し、解析のメスを入れた途端、自壊するからだ。そういう回路を積んでいた。彼もまた、稀代の天才だったのである。
及川プログラムは人に対し、「悪」という行動を起こさせる。精神の上書きともいう。上書きされた人は、それまでの人間らしい性格を忘れ、「悪」しき心で、自分の持てる以上の能力を使い行動にでる。
孤独だった及川氏が、自分を理解しない社会に対しての報復だった。優秀すぎる頭脳は、誰一人、彼に近寄らせはしなかったのである。
しかし、一九九九年、及川プログラムは電脳世界から姿を消す。
恐らく、及川が没したのだ。誰も触れられず、誰にも理解されることのなかった及川プログラムは、消滅した。

「問題は、及川プログラムがどこの古代兵器かってことだ。ま、科学省からの要請もないし、今回の俺の仕事はここまで。」
あっけらかんと言い放つ陽斗。眉をひそめ、なにか深刻な顔をしていた彩人は、一瞬迷ったような顔をして、それから言った。
「今、第一機動隊と公安が追っている電脳犯罪組織があります。」
「公安もか。そうとうデカい組織らしいな?」
聞いておきながら、陽斗は興味のなさそうに鼻を掻いた。彩人は、陽斗のそんな仕草が実はただのポーズだと知っているので、話を続ける。
「いえ、国内の小組織です。ですが、近頃になって海外進出を狙っているようで、やることが派手になってきています。」
「名前は?」
「六連……空科省では「スバル」と呼ばれています。」
六つの星が連なった昴は、古くは六連星と呼ばれていた。
「奴らが、海外に進出する足がかりとして、及川プログラムを利用し、ヘビーベイビーの事件を引き起こしたと、考えられませんか。」
「……ま、可能性はあるな。だが、なんにせよ今回の主犯はヤツさ。」
「そうですね……。」


こうして、電脳麻薬ヘビーベイビー拡散事件は幕を閉じた。
その一年後、「スバル」が海外でも観測されることになる。