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空想科学省電脳課です。

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 彩人が朝、本部での作戦会議に出席し、風吹家まで陽斗を説得に行って(扱いの難しいらしい風吹陽斗は、彩人以外の人間が協力を要請しても、対応しないことがあるため、あれでも『説得』だったのである。)、八時間が経過していた。多くは、風吹家の溜まりに溜まった埃、洗濯物、分別されていないゴミに奪われた時間である。陽斗の活動源は、何においても妻・都夜だ。この様子を見るに、都夜はしばらく家に帰ってないのだろう。気まぐれにテレビを点けたら、都夜の会社が新しい電脳防壁を開発途中だというニュースが流れた。きっと、そっちに掛かりきりなのだろう。
「今、帰りました。」
「彩人くん。おかえり。」
彩人の出迎えをしたのは、隊長である朝霞だった。
「解析の進み具合はどうですか?」
「陽斗さんが来てから良好。ものづくり課に行ってみればいい。」
「そうしてみます。」

 ものづくり課は、空科省本部の中でも、奇妙な位置に存在した。
本部一階、本来なら客人を出迎えるエントランスとなっているはずのその空間、そこがものづくり課の事務所となっている。前主任の陽斗が、わがままを言って、本来エントランスであったその場所を奪ったのである。本当に、仕様のない人である。
(現在、エントランスは二階に移り、外から直接二階へ行けるように長い階段が作られ、一階の存在はなかったことにされている。)
わがままを聞き入れる空想科学省大臣も大臣だと、彩人は思うのだが。「こんにちは。陽斗さん、いますか。」
「おーう、彩人!思ったより早かったな!」
エレベーターで降りてきた彩人が、一番目に入る位置に、ものづくり課のメインサーバーの操作パネルに直接カレー皿を置き、カレーをむさぼり食う陽斗の姿があった。
「よ、陽斗さん……。」
一年間、みっちり行動を観察してきて、陽斗の突拍子もない奇行にも、慣れつつあった彩人だが、これはド肝を抜かれた。少しでも、こぼしたらどうするつもりなのか。(……まぁ、自分で修理するつもりか。)
「大丈夫だよ、主任のカレーに対する執念は凄まじいからな。一滴だってこぼしやしないさ。」
彩人の意図を汲んだのは、池田だった。心なしか、激しく疲弊した面持ちである。電話では、あんなにはつらつとしていたのに。
最後の一口を食べ終えたらしい陽斗は大きなカレースプーンを置き、冷たいグラスを一気に仰いでいた。
「……ぷはーっ。旨かった!思ったよりは早かったが、彩人、俺の勝ちだ。ヘビーベイビーの解析は、終わった。犯人の目星もな。」
「犯人も?!」
「学者ってのは、後世に名を残したくて堪らないヤツばっかだからな。どうしても、名前を書いておきたくなる。」
プログラムに多用された回路・理論・構造から、そのプログラムの製作者がわかってしまう。それが、風吹陽斗である。
もちろん、一介の研究者であれば、プログラムのうちのひとつの回路・理論・構造を、発見・解析・理解するまでで、かなりの時間を要するだろう。
「誰ですか、犯人は!」
「犯人と決まったわけじゃない。見知らぬところで流用されたって事もある。が、重要参考人であることには変わりないな。」
「そう、ですね。言うとおりです。」
「ヘビーベイビーの製作者は、……」