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空想科学省電脳課です。

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「いやだ。」
「僕もいやです。」
「なんだそれ。」
「まぁ、便宜上。」
言った途端、彩人は姿勢を崩し、再びビスケットに手を伸ばした。このビスケットは、都夜が取引先から頂いた名のある洋菓子店のもので、オーガニックの小麦粉と新鮮卵が売りである。実際、素朴とも感じられる爽やかな甘みがとても美味しい。
口にビスケットを含んだまま、彩人は言う。
「陽斗さんには、「ヘビーベイビー」の解析と、それをもとに犯人にアタリを付けてもらいます。」
結局のところ、ヘビーベイビーの感染条件が何故「子どもが居ないこと」なのか、究明していない。それが分かれば、効果的なワクチンも対処法も分かるはずだ。空科省ものづくり課でも、目下究明中だが、稀代の天才科学者・影野陽斗(旧姓)が抜けたことによって、技術力不足は否めない。その穴を埋めるため、復帰には及ばなくとも、陽斗の協力が必要なのだ。今の空科省には。
「解析までは手伝えるけど、犯人なんか俺は知らないぜ。」
「言ったでしょう、犯人は相当な手練れだと。そんな奴なら、世間に名を挙げてないとは考えにくい。」
「わかった。お前もなかなか頭が良いよな。」
「そりゃどーも。」
陽斗が、肩肘付き、挑発するような笑い顔で言った。
「だけど、俺が空科省の依頼を受けている間、風吹家の家事は誰がやるんだ?」
ニヤニヤ、嫌な笑い顔。とても憎らしい。こういうところが、疲れるんだ。と、彩人は思いながら、「僕がやりますよ。」と返事をした。
 こうしている間にも、次々と事件は起きていた。多くのターミナルは、原因究明まで営業自粛していたが、一部のターミナルは運営を続けていたのである。危ないとは知っていても、自分は絶対に大丈夫、と思ってしまうのが人間である。他のところで事件が起きていても、自分の店は大丈夫、と思うのも、人間である。日常生活の娯楽として、もはや必要不可欠なターミナルでは、客足は絶えない。
 また、これは格好の機会だと言わんばかりに、電脳防壁を売っている会社は利益を上げた。


「これが由緒正しいミステリーなら、商社の関係者が犯人なのにな。」
「そんなに単純じゃないよ、現実は。」
なんの因果か、風吹家の洗濯物を片付けながら、陽斗は空科省支給のヘッドセットで通話をしていた。家主である陽斗は居ない。ついさっき、空科省からの迎えが来て、そちらに向かったのである。
「まぁ、とにかく陽斗さんはそっちに行かせたから、対応を頼むよ。」
「わかった。あー、忙しくなるなー。」
「なんだよ、今は暇してるっていうの?」
「いや、なんか精神的にさ。あれやれこれやれそれやんなきゃ、って、なんか落ち着かないんだよ。主任が居るとさ。緊張感っていうの?」
「今の主任はお前だろ。」
彩人の話し相手は、空科省ものづくり課の現主任・池田谷だった。彼は、実のところ彩人の中学校の同級生である。早いうちから、その能力を認められた彼は、陽斗に見出され、スカウトされたのである。だから、同い年でも彩人と年季が違う。実力世界である空科省は、いかに若かろうと、有能であればどんどん昇進させていく。彼はその頂点に上り詰めたのである。
 それはともかく。
「ところで、このこと、朝霞隊長にも伝えたか?」
「いや、まだだけど。」
「ならきっと知らないな。「スバルが動いた」らしい。」
「え?……あぁ。でも、追ってるのは第一機動隊だから。」
「あ、そうなの。まぁ知ってて損はないだろ。」
「うん、ありがと。とりあえず、これ片付けたら、一度本部に戻るよ。」
「これって?」
「洗濯物。」
「ぶっ、あはははは!」