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篠原 めい4

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 扉の開く音が聞こえなかったのか、まだ、そちらに顔を向けたままだ。足音が聞こえて、視線が、こちらに向く。一瞬、怯えたような表情をして、相手がわかると気が抜けた顔になる。
「・・・あ・・・本物だ。」
 緩やかに微笑む篠原は、雪乃の姿に力を抜く。どうしても、足音に敏感だ。いきなり、駆け込まれて暴れられた記憶というのは、直近すぎて怖くなる。その姿が雪乃だと解れば、ほっとする。
「めいに何かされなかった? 」
 ゆっくりと看病用の椅子に座り、病人の頬を撫でる。まだ頬がこけている状態だが、顔色は随分と良くなった。
「・・・叱られた・・・・」
「それはしょうがないわね。すごく心配していたから。」
「・・・でも・・岡田さんのことは言えた・・・」
「ええ、それはよかったわね。」
 岡田のことを思い出すことで、ショックで発熱していた頃から、めいに伝えなくちゃいけない、と、言っていた。それが叶って、篠原もほっとしただろう。ずっと、そのことは気になっていた、と、雪乃に何度も言った。岡田は弟妹たちを、とても大切にしていたから、みな、それを岡田からは言われていたのだが、篠原は、どうしてもめいに伝えたかった。生きていなさい、と、岡田は命じた。それには、こんなふうにめいに伝えることも含まれているのだと思っていたからだ。
「・・・本当に・・・岡田さんは・・・ずるい。」
「そうね。」
「・・・自分で言えばよかったのに・・・」
「言ってたとは思うけどね。めいも、こってり絞られていたから。」
「・・・そうなの?・・・」
「めいにも、『降りろ。』って何度も言ってたわ。・・・私には、あなたを連れて降りてくれって言ってた。」
 何度も何度も、岡田は弟妹たちのことを心配して、そう苦言を呈した。だが、それに誰も従わなかった。弟妹たちは従うよりも、一緒に戦うほうを選んだからだ。それで、命の危険に晒されてもいい、と、言い切ってしまったから、岡田は困ったことだろう。それでも死なせるわけにはいかない、と、最後の選択をした。それについて責めるつもりはないが、残念だと雪乃は思う。あのまま、篠原を行かせてくれていたら、岡田は生き残って、めいの一番幸せで綺麗な姿を拝めて、篠原とも、きちんと別れができたのだ。死んだことにはなるが、雪乃は岡田にだけは、こっそり逢わせてやるつもりだった。それから、地球は離れるつもりをしていたのだ。
「・・・・めいは地獄で、岡田さんに花嫁姿を披露するんだって・・・そういうのがあるといいな。・・・・僕には無理だけど。」
 そう言って、口先で笑う篠原に雪乃も微笑み返す。地球で生存できなくなったら、他の星へ移動して治療させて生かす、と、雪乃は篠原に常から言っている。だから、ここで眠ることはない。雪乃には岡田を詰りたい部分がある。どうして、そのまま行かせてくれなかったのか、と。そうすれば、篠原の地球での生活は、そこで終わって、自分とふたりで生きていけたのだ。まったく別の星で、健康になった篠原と誰にも邪魔されず、ふたりだけで生きていけた。その時間がくるのを岡田は延長させてしまった。篠原に少しでも長く生きていてもらいたいと、岡田が願ったからだ。地球ではない違う星での未来を岡田は知らなかったから、こんな選択をした。先に告げておくべきだった、と、今は後悔している。知っていたら、引き止めなかったかもしれない。
「極東の死生観では、死んだ人は冥界というところに降りて生まれ変わると言われているの。・・・・でも、地獄っていうのが、めいらしいわね。」
「ん? 」
「地獄は罪を犯した人が降りるところなの。そこで罪の分だけ罰を受けて、再生されることになっているの。・・・・めいは・・・ちゃんと自分たちが罪を犯しているって自覚しているってことよ? 」
「・・・VFで勝手に飛び出したこと? ・・・」
「いいえ、敵を葬ったこと。生きている生物を、私たちが生き残るために殺したという事実をちゃんと理解しているってこと。」
 戦争という免罪符はあっても、相手を滅ぼすことに違いはない。地球は護られたが、敵は完全に滅んだ。分かり合える相手なら、滅ぼす必要はないが、今度は、そんな相手ではなかった。だが、殺したという事実だけは自覚すべきものだ。VFのスタッフは、そのあたりも、ちゃんと理解している。だからこその地獄だ。
「・・・そうだね・・・たくさん・・殺したね・・・」
「その代わり、地球は生き残ったから、これでいいんでしょう。」
 別に雪乃にしてみれば、地球が滅んでも気にしないが、そこで暮らしている親しくなってしまった人間が死んでいくのは気持ちの良いものではないし、篠原には大切にしている妹がいて、その子のためにも地球が無事でなければならなかった。そうでなければ、地球を離れることに同意してくれないから、そう区切りをつける。
「・・うん・・・僕は・・いつ・・地獄に逝けるの? 雪乃。」
「そうねぇ、かなり先になりそうよ? 私、あなたを手放すつもりはないから。」
「・・・僕の身体・・・そんなに保つの? 」
「大丈夫。私の星で治療すれば、健康な身体を手に入れられる。そうしたら、毎日いろんなことを試してみましょうね。」
 雪乃が、その瞬間を待ち侘びているのを、篠原も知っている。もういいだろう、と、何度も雪乃は、この生活を止めようと提案してくれる。最後の選択の時に、篠原も、それに了承した。もういいだろう、と。出来得る限りのことはやったつもりだった。だのに、生き残ってしまって、また地球での生活は続いている。
「・・・そうだね・・・ごめんね。長引かせて・・・」
「謝ることはないわよ。私も、この生活を楽しむつもりだから。」
「・・うん・・・次に五代たちが帰ってきたら・・・おいしいものを奢る約束したから、雪乃も一緒に行こうね? 」
「ええ、是非一緒に。そんなことを約束させられたの? 」
「・・心配させた罰なんだって・・・」
「私は、もっと心配させられてるんだけど? 」
 壊れてから、記憶が戻るまで一年少し、雪乃も不安で心配でたまらない気分で過ごした。その時は、雪乃自身すら否定して逢ってもくれなかった。それからしたら、五代たちの心配なんて大したことではない。そう言外に告げると、篠原も苦笑する。
「・・・・どうしたらいい? ・・・・」
「否定しないでくれればいいわ。私がいなければ生きて行けないのだと、そう思っていてくれればいい。」
 二度と会いたいのに会えないという状況は味わいたくない。それだけはダメだ。だから、否定されなければ、それでいい。何かをして欲しいというのではない。ほんとうに、望むのは、それだけだ。
「・・ああ・・・よく生きてたね? 僕・・・・そのほうが不思議。」
「本当にね。そう考えると、あの原因も岡田さんだわ。」
作品名:篠原 めい4 作家名:篠義