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篠原 めい4

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 食事を囲むというスケジュールだから、勝手に帰られては困るから、りんも、そう頼む。
「もちろんよ。めいが、どんなファブリックを用意したのか、お披露目していただかないと帰れないわ。」
「うふふふ・・・シャンプーボトルとかリネンは、可愛いのにしたの。見て見て、雪乃。盛大にお披露目するからっっ。でも、先に腹は満たす。これが一番っっ。」
 ほらほら、開けて、と、デリのパックを取り出している。すぐに食べられるものばかりだから、パックさえ開けば急遽、宴会だ。
「思っていたより元気そうで安心した。」
「そうね、ちゃんと笑えていたから、よしとする。」
 二週間も経過していたので、篠原のほうも落ち着いていた。時期的に、ちょうどよかった、と、雪乃も告げる。
「でも、篠原は板橋さんのところに居るのね? どうして? 」
「右手が不自由だったし、まだ、体力的にも不安だったからね。板橋夫妻が、もう少しっておっしゃったの。」
 ついでを言えば、結婚する時に板橋家から息子を送り出したい、ともおっしゃった。雪乃は、その可能性を否定してあるのだが、板橋家では、それは確定事項であるらしい。それには触れない。どうせ無理な話だと諦めている。
「いい人たちだった。俺たちにもお礼をおっしゃってた。」
「まあ、それはしょうがないでしょう。今や有名人のVF艦長様の来訪だもの。」
「でも、ああいう人たちって珍しいんじゃないかしら。」
「そうでもないと思うわよ。感謝している人は多いけど、あなたたちとは距離があるから忘れているってところじゃないかしら。」
 VFの存在自体を打ち消すようにされているから、実感が伴わないのが実情だろう。それが目の前に、その騒ぎで傷ついた篠原が現れたから、板橋夫妻も考えてくれた。命を助けてくれた若い人たちを手助けするのは当たり前の事だ、と、言ってくれた。本来なら、その賞賛を存分に浴びているはずのVFスタッフだが、それについては何も思っていない。自分たちが正しかったことを証明したし、地球も護れたから、それで良いと思っている。
「篠原も親がないからなあ。」
「そうなの。もう、おふたりとも、すっかり息子の気分らしくて、もし記憶が戻らなかったら養子にさせて欲しいっておっしゃったくらいよ。」
「それ、うちの両親も言ってるな。」
「ああ、江河博士もおっしゃってたわね、りんさん。」
「実の息子より、可愛げがあっていいって言うんだ。このキャラなのは、あの遺伝子の問題だと俺は思うんだけどなあ。」
「でも、女の子にはモテるのよね? りん。」
「俺は何もしていないぞ、めい。勝手にあっちからアプローチされるだけだ。それに、篠原だってモテるとは思うんだけど・・・ねぇ? 雪乃。」
「モテないわね、篠原君は。断言してあげる。」
「うわぁー強権発動っっ。蔡オババから聞いたぞ? 雪乃が、蔡オババに篠原の虫除けを依頼したんだろ? 」
「違うわよ、蔡から申し出があったから頼んだだけ。」
 新造艦プロジェクトに配置された時に、篠原に総務管理の蔡という女性が近付いてきた。りんは、どっかの金髪美人に蹴散らされるのでは、と、思っていたが、蔡から、「私はちびちゃんの虫除けよ? 」 と、教えられた。さすがに雪乃にも手の届かない場所だから、わざわざ虫除けを用意したのか、と、感心したのだ。
「あーねー、ポチは疑うことの無い子だから、ほいほい連れ去られそうだもんね。それ、わかる。うん。」
「そうでしょう? 篠原君は純粋無垢だから。」
「そうしたのは雪乃だけどね? あれ、危険じゃないの? 少しは正しい断り方とか好意に気付く方法とか教えないと。」
「ほほほほ・・・それこそ、りんさんとジョンが楯になるから大丈夫よ、めい。ねぇ、りんさん。お願いね? 」
「まあ、ジョンがいれば大丈夫だろう。あいつなら、先に仲良くなる。」
 現在、りんも含めてVF技術班のメインスタッフは、科局の窓際部門に全員配属されている。だから、虫除けをしろ、と、雪乃は命じているのだ。そして、姉目線と兄目線のめいと五代は、うんうんと頷く。どこの子供の話をしてるんだ? と、りんはツッコミのひとつもいれたくなる。おかしなのにひっかかったら心配だと言うのだから、もうバカバカしいにも程がある。程があるのだが、これまた、それをやりそうな篠原に、りんとジョンも眼を光らせているのが実際のところだ。
「俺、篠原と同い年なんだけど? 」
「精神未熟児と一緒の扱いにされたいのかな? りんちゃんは。」
「そんなわけあるかっっ。」
「だから、ちゃんと保護しといてよね? 私のパリッとした花嫁姿を見せて、ポチには泣いてもらわないといけないんだから。」
 そう言われて人差し指を突きつけたら、りんも苦笑する。確かにそうだ。それは盛大に泣くだろう。その姿を見るのだと、岡田と約束していたのは、りんも知っていたからだ。
「人生最大のイベントだし、めいの一番綺麗で幸せな姿だから? 」
「ご名答。それから、りんも誉めるのよ? 誉めて誉めて、誉め千切ってもらうからね。」
「妬かないか? 五代。」
「誇らしく思うんじゃないかな。その花嫁を貰うのは俺なんだからさ。」
「あーごちそうさま。」
 そこで、五代は視線を下げた。それが実現するのは、もう少し先になる。VFのメンバーの実質的な謹慎が解けないと、全員集合するのは難しいからだ。
「少し待たせるけど、よろしくな? りん。」
「それまでに、おたくの末弟も完全復帰してるさ。」
「してるじゃなくて、させなさいよ? それからガードしておいてね? 雪乃が凶状持ちの犯罪者にならないように。」
「めい、私は、橘さんみたいな暴力的な排除は好まないわ。」
「うん、わかってる。でも、やりそうで怖いから。」
 こと、篠原に関しては容赦が無いのは、VFのスタッフも身に染みている。だから、何かあったら、何かをしそうで怖いというのは、VFスタッフの統一見解だ。五代もゲラゲラと、そのやりとりに笑っている。
「ほんと、助かった。ありがとう、雪乃、りん。」
「楽しい休日をありがとう。」
 こんなふうに笑いあえるのも、篠原の笑っている姿を見られて、気晴らしの外出をさせてもらえたお陰だ。かんぱーい、と、何度目になるかわからない乾杯をして騒いだ。

 




面会時間ギリギリに病院に飛び込んだ。ことのほか、宴会が楽しくて長居をしてしまったからだ。ナースステーションに声をかけて、病室に向かう。基本、完全看護な病院だが、雪乃だけはフリーパスで看病が出来る。病人が、雪乃がいるだけで精神的に安定して体調が良くなるからだ。それを、まざまざと見せ付けられて、担当医も看護士たちも、雪乃の存在を一種の安定剤と認めているからのことだった。

 病室には、誰もいなくてテレビの音が小さく聞こえていた。眠るまでの時間、寂しくないように看護士や板橋たちが、そうしている。テレビを観る習慣があまりない篠原にしても、音もない部屋よりは、何かしらの映像と音は気が紛れるらしく、それをぼんやりと眺めていたりする。
作品名:篠原 めい4 作家名:篠義