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篠原 めい4

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 仕事である限りは、ちゃんと食事も摂るが、りんも引き篭もると何もしない。ご機嫌で読書に勤しんだり、研究に没頭する。そういう休日用の栄養食品であるらしい。りんも篠原と同い年だったから、一番年下だった。ただ無愛想で仕事には熱心だったから、あまり年下扱いはされていなかったが、めいは容赦なく、『りんちゃん』 と呼んで、弟扱いをしていた。ちっと舌打ちして、りんも、それを受け取る。そういう意図なら有り難い代物だ。興味のあることだけしていたい時は、他の事はできるだけ無視したいからだ。パタンとパソコンを閉じて、けっと明後日の方向を向く。
「おまえ、相変わらず、めいには言い負けるな? 」
 人数分のビールを冷蔵庫から取り出してきた五代は大笑いだ。沈着冷静で理路整然と人を言い負かすりんだが、どこから攻撃されるか不明のめいの言葉には太刀打ちできないのは以前からのことだ。
「めいは、理論立てて話さないんだから、どうにもできない。」
「そうか? 篠原は言い負かしてるじゃないか? 」
「篠原? そんな言い合いはしてないだろ? 」
「というか、りんは篠原のことは、大声と勢いで捻じ伏せてるってだけだろ? たまに負けてるのは、篠原の粘り勝ちってとこだろうな。」
 仕事上の言い合いは数知れずやっているが、相手の意見が正しければ、それで決着はつくし、大概は、どちらの意見も出し尽くして練り合わせるように調整するから喧嘩になることもない。怖ろしく高度な言い合いになるから、誰も口を挟めないのが実情だ。そして、どちらも相手の出してくる提案を先読みしているから、それほど酷い言い合いになることもない。それを以心伝心と呼んでいる。
 くいっとビールを一口飲んで、五代は、りんの横に座る。喉を潤してから、ニヤリとりんに笑いかける。
「何? 」
「うちの末弟からのお願いを携えてきた。聞きたいか? りん。」
「科学雑誌の差し入れか? 」
 こちらも渡されたビールを手にして一口飲む。篠原のお願いなんてものは、そういうものだ。橘が、いつも当たり障りのない園芸雑誌とか子供向けの科学雑誌あたりを差し入れている。
「『りんさんが報復攻撃をしているから、そろそろ止めさせて。』ってさ。」
「はあ? え? 」
 バレているとは思っていなかったりんは絶句する。ニヤニヤと五代は笑って続ける。
「言っておくが、篠原は携帯端末を操れる状態じゃなかったから、予測しているだけだと思うぞ。ほんと、おまえら以心伝心してるんだな? 」
「それは違うと思うわよ、五代くん。鈴村夫人がいらっしゃってるから、そこから情報は掴んでいるんだと思うわ。」
 確かに今は、ニュースパックなどの情報関係の映像はシャットアウトされているが、外部から見舞いに来る鈴村から、ある程度の情報は引き出しているだろう。なんせ、その報復の大目標となっているのが、その鈴村だからだ。世間話の段階で、そのことに気付いて、篠原のほうはりんの行動を予測したのだろう、と、雪乃か補足する。
「鈴村? あいつら、まだ出入りしてるのか? 」
「毎日のように花籠を持参していらっしゃるわよ。そろそろ、あれもやめていただきたいのだけど。」
 ごめんなさい、ごめんなさい、と、篠原の耳元で嘆かれるのは、雪乃にとっても迷惑行為に該当している。謝罪なら、傍から消えてくれ、と、言いたい。
「今日、高之と篠原が、『忘れてください。』って言ったから、そちらは大丈夫なんじゃない? ・・・・まあ、あんたはスーパーテロリストだけど、その動きを把握されてるわよね? 」
 どちらも同じくらいに優秀なので、相手がやりそうなことも予測できている。スーパーテロリストが、なぜ、スーパーテロリストと呼ばれているのか、それも以心伝心の賜物だからだ。りんは、どうせ後で篠原が来るだろうから、そちらの担当しそうなことには手を出さずに妨害工作をした。もちろん、お間抜けテロリストのほうも、なんとなく予想していたのか、そちらは工作しなかった。だから、重ならないで妨害工作はされて新造艦の発進は遅れたのだ。お間抜けのほうは、新造艦プロジェクトのメインスタッフによる多大なバックアップをされていたから、その事実は、あまり広まっていないが、VFスタッフでは、さもありなんと拍手された。
「・・・うーん、確かに、あそこは攻撃したけど。」
「株価操作はやりすぎでしょ? あれだけ暴落させたら気付かれるわね。」
 雪乃のほうも平然と、その事実を暴露する。完全に犯罪枠のことを、りんは誰に知られることもなくやってのけた。あんまり腹が立っていたから徹底的にやったのだ。
「・・・雪乃・・・」
「あら、知らないと思ったの? わかるわよ。それぐらい。」
「子供の喧嘩レベルね? りん。もうちょっと頭を使いなさいよ。」
 雪乃もめいも、りんの犯罪なんてものはからかいのネタ程度のことだ。それでりんが逮捕される心配なんて微塵もないからだ。
「りん、篠原のお願いは伝えたぞ? 」
 五代もニヤニヤ笑って告げる。止めろ、と、命じているのかと思ったら、その逆だった。
「せめて、俺の末弟が回復するまで、気付かれないようにやれ。復帰してくるまでにやって、あいつには後の祭り状態にしておけばいい。そういうことなら、俺は賛成だ。原因は、ボケボケたちだろ? 」
 そもそも、あの怪我は報復してしかるべきだろう、と、憤慨している。その代表格の議員が逃亡しているのだから、配下だけでも攻撃しておくのは、否定しないが、騙されていた人間に激しい攻撃は、あまり上策ではない。めいが雪乃からの説明を教えてくれたから、その議員が報復攻撃以上の罰を受けているのは判明している。大切な人間が亡くなった痛みを転嫁するには、篠原は無関係すぎる。やるならボケていた極東州のトップたちだろう。
「なるほど、そういう方向なら了解。つまり、ボケじじいとババアに焦点を絞れってことか。」
「まあ、そういうところだろう。」
「トップが一新すると動きやすくなるから楽かもしれないわね。」
「雪乃、それはやりすぎ。」
「あら、五代くんも穏健派なのね? 」
 たぶん、一番過激なのは雪乃だ。トップの首を挿げ替えろ、と、事も無くおっしゃっているわけで、これには五代もりんも苦笑する。
「いや、そこまでやると篠原にバレる。俺、復帰してから睨まれるのは勘弁だぞ。」
「確かに。」
 以心伝心している相手だから、復帰して情報が手に入れば、即座にりんのやったこともバレる。そこまでやれば、確実に怒るのは目に見えているから、やりたくない。できないのではないところが、りんの優秀で残念なところだ。
「とにかく、りんは、うちの子にバレないように暴れなさい。あーお腹空いた。店開きしない? 」
 がさがさとデリの惣菜やらを取り出しつつ、めいが、その話に切りをつける。どうせ、この話は続くのだ。それなら食事しながらのほうがいい。そういや、腹減ったな、と、五代も取り皿や箸を準備するのに立ち上がる。久しぶりに友人を交えての食事だ。
「雪乃、あと一時間くらい付き合ってくれ。」
作品名:篠原 めい4 作家名:篠義