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篠原 めい4

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 そっと囁くようにめいが声をかけると、身体からも力が抜けていく。パネルでバイタルサインを確認して眠ったのを確認して手を離した。寝顔を眺めつつウィッグを被って整える。
「・・・バカ・・・ほんとバカ。あんたが生きてただけでも儲けモノなんだからね。」
 呟くように言って、五代に抱きつく。岡田が、どれほど自分のことを心配してくれていたのか、めいだって知っている。何度も降りろ、と、言われたのも篠原と同様だった。ずっと可愛がってくれた兄だ。失くした時は悲しくて泣いた。その任務は篠原か岡田が行くしかなかった。どちらかを喪うのだと知らなかった。後で五代に聞いて、篠原だけでも生き残ったことには安堵した。それも岡田は強引な方法で生き延びさせた。 それが岡田の答えだ。おまえたちに後は任せる、なんとかしておけ、という岡田の声が聞こえてきそうだ。
「わかってるわよ。岡田さんは、あんただけでなくて私にも言ってたんだもん。花嫁姿を拝ませろって何度も約束させられたもん。」
 めいも岡田から、そう何度も約束させられた。篠原とふたりでお祝いするから、と、言われていたのだ。だからこそ、こんなことで篠原を失うわけにはいかない。是非とも、自分の一番幸せで綺麗な姿を片方にだけでも見せなければならないのだ。
「なるべく早く、式は挙げよう。」
「できればね。」
「よく耐えたな? めい。」
「私は、あの子の姉なんだから、一緒になって泣くわけにはいかないのよ。」
 いつもなら感情の起伏の激しいめいは、篠原のストレートな言葉にストレートな怒りで投げ返すところだ。さすがに、心身ともに弱っている篠原に、それはできないから、口調を控えめにして言い返した。
「ご苦労様。惚れ直した。」
「それなら、パジャマを買って。」
「なんならスリッパもつけてやる。」
「よしっっ。じゃあ、ポチも寝たから帰りましょう。」
 涙を、五代のコートの肩で拭うとサングラスをかけた。五代のほうも帽子を目深に被りサングラスをかける。とりあえず、篠原の無事な姿を確認したので、ふたりで腕を組んで病室を抜け出した。



 合計三時間程度の滞在だから、雪乃はのんびりとリビングのソファで持参した雑誌を捲っている。対面では、りんが、何かしら持参したパソコンを操作しつつ思案している。実は、IDカードと携帯端末の交換だけで、この隠密行動は成立していない。携帯端末での連絡の肉声が問題だった。それだけは隠せないから、こちらから通信関係にアクセスして声を誤魔化している。それと、外出して防犯カメラなどに映る姿もチェックして、マズそうなものも解析率を下げて記憶させていた。後で証拠として取上げられるであろうものは、悉く潰しているのだ。だから、行動予定も組んである。その通りに、五代たちも動くように指示されていた。
「悪いな、雪乃。大切な休暇をダメにした。」
 操作をしつつ、対面の雪乃にりんは謝る。本来なら、休みは篠原の傍に、ずっと付き添っていたいはずの雪乃の時間を借りた。女性で病院に出入りしている人間が、他に思いつかなかったからだ。
「・・・今夜は、あちらに泊まるつもりだから構わないわ。それに、篠原君だってめいや五代君に会いたかっただろうから。」
「そう言っていただけると、スーパーテロリストとしては有り難い。」
「ねぇ、りんさん。りんさんこそ、とても労力を惜しみなく使ってくれてるじゃない。それほど心配だった? 」
 他人様なんかに手間をかけるのが面倒だ、と、公言しているりんが、ここまでお膳立てするのは珍しいことだ。
「・・・・心配っていうより、まあ、あいつの気晴らしにもなるだろうからさ。めいの強力な元気オーラっていうのは、こういう時、貴重だろ? 」
 どんなにめげそうな状況でも、めいはへこたれない。マイナスをプラスに変換できる。それが、はったりでも効果は絶大だ。篠原が落ち込んでいそうな時は、そういうものが必要なのは、りんもよく理解している。りん自身は、見舞いには行けないので、めいと五代を篠原に出前してやろうと思った。青白い顔で寝込んでいられると、りんは怖くて仕方がない。かなり具合が悪い篠原に、後のことを、つらつらと頼まれたことがあったが、それだけで膝が笑った。親友というものを、それまで持つことのなかったりんにとって、篠原は大切な親友で、それの死に際なんてものに遭遇したくなかったからだ。そういう恐怖を味わってしまったら、もうダメだった。あれから、二度と見舞いなんか行かないし、おまえの死に際の頼みなんて聞かない、と、回復した篠原に怒鳴って殴った。それから、りんは見舞いには行けなくなったのだ。行けないからといって気にしていないわけではない。今回のことは腸が煮えくり返るほどに激怒した。下手をすれば、二度と自分は篠原と逢えなくなったかもしれなかったからだ。
「りんさんらしいわね。」
「どうにか無事に接触したよ。これから帰路だ。」
 手元の画面を睨みつつ、移動している二人を確認している。五代は割りと簡単な細工だと思っているが、それほど単純なものではない。チェックしている防犯カメラの映像は多いのだ。これから橘と携帯端末とIDカードの交換をして、りんが指定したショッピングモールで買い物をする。それも、全部、りんがチェックしている。




 きっちり三時間後に、ふたりはマンションに戻って来た。大きな荷物を、ふたりとも持っている。用心して、帰りはマンションの前までタクシーを乗りつけた。
「おかえり。・・・って、なんだ? それは。」
「ファブリック関係の荷物。通販で揃えるより、直接、確認して買い物してきたの。」
 いやあー大収穫、と、めいはくふくふと含み笑いを漏らしている。めい自身は外出に規制はないが、やはり恋人の意見も聞きたい。その用件が叶って満足だった。
「適当に食事のほうの買い物はしてきたけど、デリバリーも頼むか? 」
「それだけあれば足りるだろ? 」
 五代が持っているのは、デリの惣菜やパン、ワインなどという食料関係だ。こちらも大量にある。
「雪乃、あなたのIDカードで買い物しちゃったから、後で精算してくれる? りんのも使ったわよ? 」
「新居の引っ越し祝いに差し上げるわ。」
「俺のもいいよ。どうせ一緒に食べるんだから。」
「ありがとー愛してるわー雪乃。」
「俺には礼はないのか? めい。」
「ああ、あんたには、今回の功労賞があるの。」
 居間のチェストから取り出したタブレットを、めいはりんに投げて寄越す。それは、篠原のところに置いてきたものと同じものだ。
「ああ? 」
「それ、試作品。ちょっと栄養素の配分で後味が悪いの。あんたは、なんでも食べる子だから、進呈。」
 試作して栄養素の添加具合で、味に問題なものができてしまった。それらは、もれなくりんに贈呈された。平田にも了承済みだ。
「俺は、ちゃんと人並みに摂取してる。橘さんにでも渡せ。」
「たっはははは・・・この困ったちゃんは、おねーさんが知らないとでも?休みは自堕落して食事もおざなりのりんには必要でしょ? それ、カロリーもあるから一日食事を抜いても大丈夫。一日三個。」 
作品名:篠原 めい4 作家名:篠義