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篠原 めい4

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 初めて出迎えた時と、前回とで、ほとんど篠原の横幅が変らないって、どういうことだよ? と、平田は愚痴り、めいも、それに付き合って同意した。それで暇つぶしも兼ねて、飴を製作した。篠原が入院したという情報が耳に入って、直接、渡そうとめいが預かっていたのだ。
「・・・僕、子供じゃないんだけどなあ。」
「なんでもいいから食べなさい。」
 めいにすれば、手のかかる弟という気分だから、上から命令だ。篠原のほうも、姉だと宣言されているから、大人しく、「うん。」 と、頷く。それから、めいの顔を眺めて、「ごめんね、めい。」 と、言葉を零した。やりとりを笑いながら聞いていた五代も、ん? と、顔を近づける。
「ん? なんの謝罪? 」
「・・・・岡田さん、助けられなくてごめん。岡田さん、めいの結婚式を楽しみにしてたんだ。一番幸せで綺麗な姿のめいが拝めるって。急に出航することになった時も、結婚式を挙げてからにすればよかったのにって愚痴っててさ。五代の甲斐性なしって怒鳴ってたんだ。・・・・だから、岡田さんだけは助けたかったんだ。・・・・めいの花嫁姿を見せてあげたかった。ごめんね、めい。僕が生きてて。・・・ほんと、ごめん。」
 ライスシャワーをガンガン浴びせて、祝いの言葉を叫んで、綺麗な花嫁姿を堪能しよう、と、岡田と約束した。だのに、最後の最後で、岡田は危険な任務に飛び出してしまった。篠原を動けなくして、これ以上に戦闘に参加できないように腕まで折っていった。めいの笑う姿を見るたびに、それが思い出されて悲しい気分になる。なぜ、ここに岡田ではなく、自分がいるのだろう、と、考えてしまう。謝りたくて岡田が楽しみにしていたことも告げたくて、でも周囲には人が多くて言えなかった事だった。
「それが言いたかったのね? ・・・・はいはい、ありがとう。わかってるわよ、そんなこと。私も岡田さんに愚痴られたもの。」
 顔を合わせるたびに、何かを言いたそうにしている末弟には気付いていたが、人手が多くて問い質せなかったのは、めいも同様だ。何か思うことがあるのだろうと、五代も思っていた。だから、人払いをした。こんなことは、他人に聞かせられない。篠原の言葉は、普通に聞けば壊れているかのような言葉だが、そうではない。ただ、思っていることを素直に告げているだけだ。だから、めいもおためごかしの言葉なんて吐かない。
「あのね、この際、はっきりと言っておくけど、生きているほうが奇跡なの。あの状況で生き残ったほうが奇跡。だから、岡田さんは助けられなかったんじゃなくてね、奇跡を得られなかったが正解。」
「え? 」
「あんたは最後の戦闘に参加してないから実感がないでしょうけど、終わった時に、なんで生きてるの? って、みんな、呟いたぐらい酷かったんだから。」
 被弾してエンジンの出力が低下していくのに、確実に敵の主砲から逃げ延びたのは、運転手の神業の操艦技術だけの賜物ではないし、全機帰還はしなかったまでも、半数以上が生き残ったパイロットのチームも、人間業とは思えなかった。あんたら、人間じゃない、と、ツッコんだら、「おまえも同類だ。」 と、叫ばれたあの瞬間のことを考えたら奇跡としか言いようがない。篠原だって、そうなのだ。医務室で冷凍保存されていたわけだが、そこに砲弾が飛び込むなり、爆発の連鎖が起こっていれば眠っていた篠原は、そのまま宇宙の塵になっていてもおかしくはないのだ。生き残ったほうが奇跡と言っても良い。
「奇跡的に生き残ったのよ。生き残ったからには、生きていくのが必然よね? だから、生きててごめんはご法度。オッケー? ポチ。」
「・・うん・・・」
「岡田さんのことは残念だけどね。・・・・でも、そこで立ち止まってる暇はないの。篠原や私が生きている限り、岡田さんも生きてるのと同じことだと思いなさい。私たちが思い出すたびに、岡田さんは忘れられることもないし、私たちの傍でいてくれるから。」
「・・・うん・・・」
「そのうち、私たちだって三途の川を渡るのよ。その時に、地獄で逢ったら謝れば良いし、私は、そこで花嫁姿を披露して感想を貰うわ。」
「地獄? そういうのあるの? 」
「さあね。でも、そう思ってたら再会できる気がするでしょ? 」
「・・・うん・・・」
「だから、篠原は私の花嫁姿を二人分堪能して、私を誉めなさいよ? 」
「・・・うん・・・」
「そのためには、さっさと回復して、さっさと復帰する。いいわね? 」
「・・・うん・・・」
「ただし、無茶はしないこと。さらに、こういう騒ぎに二度と巻き込まれないこと。」
「・・・うん・・・」
「ほんと、離れてるんだから心配させないでよ。心臓に悪い。」
「・・・うん、ごめんね、めい。」
「こんなところで終わったら、私は許さない。」
「・・・うん・・なんとかする。」
「次回、地球に帰還した時には高いものを奢れ。」
「・・高いもの? どんな? 」
「妥当なところで肉? 魚? おいしい高いもの? 」
「・・・・あはははは・・うん・・・平田さんにもお礼を言わないと。」
「めい、それ、違う方向に曲がってるぞ。」
 ようやく篠原か笑い出したので、五代も止める。気にしていることは、もうどうしたって取り戻せないものだ。それなら、それは頭の片隅に置いて、前へ進めばいい。五代も陰でこっそりと愚痴られていたから、そのことは知っていた。岡田は月基地の周辺に眠っているだろう。そこからなら、めいの花嫁姿も拝めるだろうと信じている。
「五代、僕、五代にお願いがあるんだけど、いい? 」
「ああ、金がかかることじゃなければな。」
「スーパーテロリストが、僕のことで報復しようと、陰で、いろいろと動き回っているのでやめてくれるように命令して。もう十分だと思う。」
「そんなことまでやってるのか。さすが、スーパーテロリストだな。わかった、そろそろやめろ、と、忠告しておく。他には? 」
「めいとお休みを楽しんでくれればいいよ。お見舞いありがとう。顔が見れて嬉しかった。」
「じゃあ、次回は高いものを奢ってもらおう。」
 これでこっそり出かけられる方法は判明したからな、と、五代も頷く。これなら、それほど深刻でもなさそうだ。
「・・お肉? お魚? おいしい高いもの? 」
「そう、それそれ。」
「・・・ジョンとりんさんに、おいしいところを教えてもらっておくよ。」
「そうだな。なんなら、おまえの手料理でもいいよ。」
「・・・うーん、それまでにリハビリできていたらね。」
 リハビリ途中の右手と、これから怪我が完治してリハビリするであろう左手では、料理は心許ない。どこかおいしい店でも探してもらおう、と、篠原も内心で考えている。なんだか、ほっとした。言いたかったことも言えたし、久しぶりに姉と次兄にも会えた。どちらも元気そうだし、相変わらず、過保護な心配っぷりで嬉しかった。ほっとすると気が抜ける。とろりと目が閉じいくのを止められない。
「もう、いいわよ。おやすみ、篠原。」
作品名:篠原 めい4 作家名:篠義