深夜
可奈は泣きながら訊いた。
高村が離婚した原因は、隠していた可奈からの手紙を、別れた妻に発見されてしまったからだった。成り行きで不本意な結婚をしてしまったが、彼は結婚後も可奈を愛していた。それを今云うつもりはない。云ってはならないことだとも思っている。五年前に可奈と別れた理由も、死ぬまで話すことはないだろう。
「……」
可奈は水割りを飲み干してまた水割りを作った。
「わたしね、高村さんが離婚したって、兄から聞いたとき、目の前が明るくなったの」
可奈は笑顔になった。
「どうして?」
「もう一度、わたしのこと考えてくれるかも知れないって、思ったのよ」
「じゃあ、テレパシーだ。ぼくはね、離婚してから毎日、可奈ちゃんのことばかり考えていたんだ。正確に云うと……」
「どうして?どうして何も云ってくれなかったの?」
「裏切った男の顔なんか、見たくないだろうと思ったからね」
「裏切ったのはわたしよ。わたしが高村さんとの約束をすっぽかして、富田さんと映画を観に行ったんだから……」