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深夜

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「……ずっと聞きたかったことだけど、どうして可奈ちゃんがあの映画を観に行ったのか。不思議だったよ。まさか映画館で鉢合わせになるなんて……」
「富田さんはね、高村さんがあの映画の前売り券を買うとき、見ていたの。それでわざとわたしをあの映画館に連れて行ったのよ」
「そうだったのか。だけど、もっと大きな疑問は、可奈ちゃんがどうしてぼくとの約束をすっぽかしたのか、ということだったよ」
「富田さんがあの映画をどうしても一緒に観たいと云ったの。一緒に観てくれなかったら死ぬって、云ったのよ。わたしが高村さんとの約束があるからと云って断ったら、彼は手首を剃刀で切った。わたしは流れ出した血を見て……」
「そんなことをしたのか、あいつ」
「でもね、わたしが彼と一緒に映画を観たのはあの日だけよ。それどころか、二度と会わなかったわ」
「……今頃になって思い出したよ。彼の手首の包帯を」
「今度はわたしの番だわ。あの映画館に連れて来たひとが別れた奥さんでしょ?」
 それを聞いて高村は笑った。
「あれは妹だよ。ぼくが結婚した相手は、上司の不倫相手だったんだ」
「上司の不倫相手!?」

続きがあります。
 

 






作品名:深夜 作家名:マナーモード