深夜
「なかなかいい写真を撮るんだなって、思いましたよ」
「どこで?どこで観たんですか?新聞に載ったのを観てくれたんですね?」
それは知らなかったが、
「なかなかの感性の持ち主ですよ。可奈さんは」
「画家の高村さんにそう云って貰えたから嬉しいわ」
「皮肉はやめて欲しいな。絵なんてもう何年も描いてないし」
「嘘!描いてないの?でも、わたしは高村さんが有名な画家になる筈だと思っていますよ……高村さんからプレゼントされた絵は今もわたしの部屋に飾ってあるの」
「そう、そうでしたか。じゃあ、また描き始めようかな。有名な画家にはなれないだろうけど」
「描いて下さい。そして、今年の秋のわたしの結婚のお祝いに、高村さんの絵を下さい」
知らなかった。近い将来、夫婦で報道カメラマンということなのだろうか。
「半年後だね……そうか、おめでとう!こっちも半年頑張って、凄いのを描くよ」
「わあ、嬉しい……でも……」
「でも、何?」
「……」
可奈の瞼から大粒の涙が溢れ出したのはそのときだった。そして、不覚にも高村の瞼からも涙が溢れ出した。
「……高村さん、どうしてあなたが泣くんですか?」