深夜
「……ああ、失礼。こちらのことですか……もう、三年以上も前のことですからね、忘れてました」
「可奈ちゃんでいいんですよ。お化粧を落とせば子供の顔に戻ってしまうの」
「そうかな?でも、離婚した理由は聞きたくないでしょうね……」
「ごめんなさい。いいんです。誰にも云いたくないことってあるはずだし、わたしなんかに話しても意味ないじゃないですか」
「……そんなこともないと思いますが、もっと愉しい話をしたいけど……可奈さんは、今はどんな仕事をしているんですか?」
「テレパシーが復活しましたね。わたしは今、プロの写真家と行動を共にしているんですよ。楽しいだけじゃないけど、というか、辛いことの方が多いんですけど、間違いなく毎日充実しているんです。報道カメラマンとして生きて行こうと決めて、スタートを切ったつもりなんです」
「大学では写真のサークルに入っていたんでしたね」
「そうです。お兄ちゃんから聞いたんですね」
そうではなかった。密かに大学祭を観に行ったのだ。以前から写真が好きな高村は、学生たちの写真に興味を覚えて展示を観ているうちに、吉川可奈という名前を発見して驚かされたのだった。