深夜
「忘れてたのかも……あっ!呑んでるんですか?わたしも呑みたいかな?」
五年前は高校生だった可奈も今は大学を出て働いているに違いない。
「もう未成年じゃないんですよね?遠慮なくどうぞ。一樹君を起こして来ますか?」
「駄目ですよ。こんな時間に起こしたら機嫌を悪くして大変なことになりますよ!」
そう云いながら可奈はサイドボードからグラスを出して来て、ソファーの右端に坐った。高村はそのグラスに琥珀色の液体を注いだ。
「テレパシーが通じましたね。私の希望通りのところで止まりました」
微笑みながら可奈はグラスに氷を落とし、ミネラルウォーターを注ぐ。高村はマドラーをその中で回転させた。
「五年経っても変わりませんね、高村さん」
「可奈さんは変わりましたね」
顔を見合わせる二人はもう笑顔ではなかった。
「……」
高村は俳優が食事しているのを映しているテレビ画面に眼を戻した。
「離婚したんですよね」
可奈が静かに云った。
「そうでしたっけ。相手は誰だったのかな?」
「あの俳優じゃなくて……高村さんのことです」