夢の運び人 Starting Point
――僕は起きた。
窓から眩しい朝日が差し込んでいる。
夢の事は気になったけど、特に考える事も思い当たる事もないから考えるのは止めた。
僕は目を擦りながら部屋を出た。お父さんとお母さんが「おはよう」と言う。僕も「おはよう」と返した。
お父さんとお母さんは元気がなかった。しょんぼりとした顔をしている。
「お父さん、今日は仕事お休みなの?」
僕はお父さんに訊いてみた。
「そうだよ」
お父さんは静かに応える。
「お昼にキャッチボールしようよ」
「いや、今日はゆっくり休ませてくれないか?」
お父さんは優しく僕に言った。水曜日に仕事が休みなのは珍しかったから遊んでほしかった。
お昼にお母さんが誰かと電話しているのを聞いた。
難しい話をしていて、リストラがどうとか、借金がどうとかと言っていたけど僕にはよく分からなかった。
お絵描きをしているとお母さんが言った。
「今日は外が暖かいわよ。お散歩して来たら?」
「お母さんは行かないの?」
「お母さんは夕飯の支度をしなくちゃ」
僕は一人でお散歩に行った。
近くの公園には誰もいなかったから、仕方なく一人でブランコに乗って遊んだ。
すると一人の男の人が僕の所に来た。僕はブランコを止める。
「坊や、ちょっといいかい? 道を教えて欲しいんだけど」
男の人は低い声で言った。地図を広げて僕に見せる。
お父さんから、知らない人にはついて行ったらいけない、と言われていたけれど道を教えるくらいはいいと思った。
「ラフスキーさんのお家なんだけど分かるかな?」
男の人は困った顔をして訊く。
ラフスキーおじさんは僕の家の隣の家だったからすぐに分かった。
「ここだよ」
地図を指で指して示す。
「ああ、ここかあ。ありがとう、坊や」
男の人は僕の頭を撫でて周りをきょろきょろと見渡す。周りには誰もいなかった。
「ん? ここはどこかな?」
男の人は地図の真ん中を指差して言った。
僕は地図を見たけれど、全く知らない場所で困った。
「分からないよ」
そう言って顔を上げると、男の人は黒光する何かを僕のおでこに付けた。すごく怖い顔をしていた。
「悪いな、坊や」
男の人の声の後、バシュッという音と僕の意識が遠退いたのは同時だった――
作品名:夢の運び人 Starting Point 作家名:うみしお