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夢の運び人 Starting Point

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――僕は緑色の草原に立っていた。
 目を丸くして周りを見ても、ただ緑の草が広がっているだけで何もなかった。空を見てもただ青いだけだった。
 僕は自分が死んだのだと悟った。でも何とも思わなかった。痛い所もないし、怖くもない。
 すると白い髭を生やしたお爺さんがいつの間にか目の前に立っていた。夢で見たお爺さんだ。
 お爺さんは僕の後ろを指差す。僕は振り返った。
 そこには、ぼんやりとお母さんとお父さん、僕に道を訊いた男の人が話している様子があった。
 僕はそれに近づこうとしたけど、お爺さんが僕を止めて首を振った。
「言われた通り殺しました。報酬はこの口座に」
 男の人が言って、お父さんに紙切れを渡した。何も言わずにお父さんは受け取って、男の人はどこかに行った。
 それを見送る事なくお母さんが泣き崩れる。顔を抑えてお父さんに寄りかかる。お父さんも泣いていた。
 それを見た僕も泣いた。お母さんとお父さんの気持ちが僕にははっきりと伝わったからだ。
 しばらく経って消えて、お爺さんが僕の肩に片手を乗せる。僕はお爺さんの顔を見た。
「よいか、人間は夢で生きている。夢を追いかけて、希望が失われると自分を見失う。時に常軌を逸した行動に出る。眠った時に見る夢は、その希望を与えるのだ」
 お爺さんの言っている事はよく分からなかった。
「君に夢を運ぶ仕事を与えよう。人間に希望を与えるのだ」
 そう言うとお爺さんは僕の頭に手を乗せた。僕は妙な安心感に包まれて、一度拭き取った涙をまた流した。
「頑張りなさい」
 これからどうしたらいいのか分からない僕にはそれで十分だった。
 僕は小さく頷いた。
作品名:夢の運び人 Starting Point 作家名:うみしお