夢の運び人1~5
夢の運び人2
ある時、夢の運び人は迷っていた。
自らの眼下で泣き疲れて寝てしまった少女を見ながら、この人間にどんな夢を見せてあげようか、と。
ある事を思いついた運び人は、片手にある袋から夢を取り出す。すると、少女の頭に静かに入れた――
――私はケーキを作っている。
なぜなら今日は大好きなお母さんの誕生日だからだ。
お父さんと計画して、お母さんが仕事に行っている間に私はケーキを作る。お父さんは仕事の帰りにプレゼントを買ってくる。
お母さんは、きっと喜んでくれるだろう。
本に書かれたケーキのレシピを見ながら鼻歌を歌う。足を動かし、手を動かし、踊りながらケーキを作る。
なんて幸せな日なんだろう!
ボールに入ったホイップクリームをくるくるとかき混ぜながら私もくるくる回る。そのクリームでシホォンケーキを包み込む。
余ったクリームを小指で少し取ってちょっと味見。
うん。甘くて美味しくできた。
後はフルーツで盛り付けて完成。
時計を見ると、そろそろお母さんとお父さんが帰ってくる時間になっていた。
私はケーキをテーブルの真ん中に置いて準備をする。
しばらく待ってお母さんが帰って来た。
お母さんはテーブルのケーキを見て目を丸くし、笑いながら私を抱き締めてくれた。
お父さんも帰って来て、お母さんに綺麗に包装されたプレゼントを渡す。
家族皆が笑顔だった――
――夢の運び人は、目が覚めた少女を見守っていた。
少女は驚いた顔をして部屋を見渡す。そして自分の腕を見ようとした。
しかし、腕があるはずがなかった。数年前の事故で腕と足を無くしたからだ。
少女はいつもの光景に酷く悲しみ、いつもより大粒の涙を流した。
少女の泣く姿を見ていた運び人もいつの間にか涙を流し、静かにその場を去った。