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マリッジセレモニー

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「お父さん、お母さん。今まで育ててくれてありがとう」
 式場の控え室で妻は涙した。私も涙した。
 決して涙は見せないと決めていたのだが、それは無理という話だ。
 全身から湧き起こるこの喜びを、涙以外の何で表すことができようか。

『名字は変わってしまうけれど、私にとって、お父さんとお母さんはいつまでもお父さんとお母さんです。だから、お父さんとお母さんも、どうか変わらずにお父さんとお母さんでいてください』

 私は妻と二人で新郎の控え室に向かった。
 私から娘を奪う男の顔を、もう一度だけ式の前に見ておきたいと思った。
「ここまできてジタバタするのはみっともないですからね」
「わかっている」
 新郎の立場から言えば、こんなときに小言を言われるのも泣き付かれるのもできることならば避けたいことだ。
「娘を幸せにすると言った約束を破るようなことがあったら、私は絶対に許さないからな」
「はい。お義父さん、どうか信じてください」
 二人で幸せになります。顔にはそう書いてあった。
 それは娘も同じだった。
「まだお義父さんではない」
「あっ、すいません」
 妻がたしなめるような視線を投げてきた。
「式が終わったら嫌でもそう呼んでもらうのだから、焦ることはないだろう」
 私がそう言うと、妻は『仕方のない人ね』と半ば諦めたような、残りの半分は楽しんでいるような、そんな微笑みを浮かべた。

「わかりました。お義父さん」
「まだお義父さんではない」

作品名:マリッジセレモニー 作家名:村崎右近