マリッジセレモニー
「ねぇ、お父さん。私ね、いつからお父さんのこと、『お父さん』って呼ぶようになったのかな?」
それは忘れもしないあの冬の出来事。
私の腕に刻んである記念日。
「いつだったかな」
私は娘の横顔を見るのをやめ、夕陽に視線を移した。
それは美しい夕陽だった。
あの日から娘は何かを目指すようになった。驚くほどの行動力で、ついには単身英国に渡るほどだった。
そして明日、娘は新しい人生を歩きだす。
これからはもう私とは見据える方向さえも違ってしまうのかもしれない。
私にできることは、娘が迷わぬように傍に居ることではなく、迷ったときに方向を示してやることでもなく、本当に何もかもを―傷付いたときに帰る場所さえも―失ってしまったそのときに、安らぎを与えてあげられるよう、私が変わらずに私でいることなのだ。
実際に戻ってこられても困る話ではあるが。
「お父さん、今まで……」
「待ってくれ」
私は娘の視線を横顔に受けながらも、視線を夕陽から逸らさなかった。
「お前は私に明日の結婚式は目の下を腫らした顔で出席しろというのか? それに、私が一人で育てたわけじゃない。お母さんと一緒だ。だから、その言葉を聞くのは二人一緒が良い」
とはいえ、娘の決意に水を差した形になってしまった。
親として気持ちよく送り出すことさえもできなかった。そんな自分を情けなく思った。
「最後の最後までケチつける気なのね」
娘の声は呆れ果てていたが、今日一番の自然な声だった。
「最後のワガママだ」
私がそう言うと、娘は私の傍にそっと寄り添い、何をするというわけでもなく、ただただ夕陽が沈んでゆくのを静かに見守った。
それは忘れもしないあの冬の出来事。
私の腕に刻んである記念日。
「いつだったかな」
私は娘の横顔を見るのをやめ、夕陽に視線を移した。
それは美しい夕陽だった。
あの日から娘は何かを目指すようになった。驚くほどの行動力で、ついには単身英国に渡るほどだった。
そして明日、娘は新しい人生を歩きだす。
これからはもう私とは見据える方向さえも違ってしまうのかもしれない。
私にできることは、娘が迷わぬように傍に居ることではなく、迷ったときに方向を示してやることでもなく、本当に何もかもを―傷付いたときに帰る場所さえも―失ってしまったそのときに、安らぎを与えてあげられるよう、私が変わらずに私でいることなのだ。
実際に戻ってこられても困る話ではあるが。
「お父さん、今まで……」
「待ってくれ」
私は娘の視線を横顔に受けながらも、視線を夕陽から逸らさなかった。
「お前は私に明日の結婚式は目の下を腫らした顔で出席しろというのか? それに、私が一人で育てたわけじゃない。お母さんと一緒だ。だから、その言葉を聞くのは二人一緒が良い」
とはいえ、娘の決意に水を差した形になってしまった。
親として気持ちよく送り出すことさえもできなかった。そんな自分を情けなく思った。
「最後の最後までケチつける気なのね」
娘の声は呆れ果てていたが、今日一番の自然な声だった。
「最後のワガママだ」
私がそう言うと、娘は私の傍にそっと寄り添い、何をするというわけでもなく、ただただ夕陽が沈んでゆくのを静かに見守った。