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てっしゅう
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「神のいたずら」 第八章 母の心配

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「ママ、お姉ちゃん帰って来てないよ!連絡あったの?」

碧はひょっとして・・・と疑った。

「碧もう寝てしまっていたから言わなかったけど、遅くに電話があって、友達の家に泊まるって言ってたわよ」
「そう・・・初めてだね、泊まってくるの」
「そう言えば・・・そうね。でももう弥生は大学生だし、親が口出しする事もないわ」
「いいなあ・・・碧だと怒る?」
「泊まったらって言うこと?・・・そりゃ心配するよ。怒るというより、帰れないなら迎えに行ってあげるわよ」
「パパも同じかな・・・」
「もちろんよ。いくらしっかりしていてもまだ中学だからね。学校にも知れたら大変だし。しないでよそんな事!」
「うん、大丈夫だよ」

ずっと弥生のことが気になっていた。「きっとお姉ちゃん、上松さんと泊まったんだ」・・・そんな気がしていた。

月曜日の夕方部活が終わってから職員室を覗いた。清水先生のところに近寄って、話したいと声をかけた。
「小野さん、どうしたの?急ぎかなあ・・・」
「いえ、そうではないですが、聞きたいことがあって、時間ないですか?」
「今ここじゃダメなのか?」
「プライベートなことなので・・・二人で話したいです」
「そうか・・・ちょっと待ってて。帰り支度するから、外で話そう」
「はい。では廊下で待っています」

しばらくして清水は職員室から出てきた。校庭で碧は話し始めた。
「先生、怒らないで聞いて下さい」
「なんだい?」
「今付き合っている人いますか?」
「急に何を聞くかと思えば・・・ビックリしたなあ。居ないけどそれがどうした?」
「本当ですか?前島先生とは何もないですか?」
「変なこと聞くな・・・ある訳がないじゃないか!失礼だぞ、そんな風評立てると先生に」
「すみません・・・前島先生には聞いてありますから、清水先生のお気持だけ聞きたかったので、話しました」

清水はいきなり生徒から交際のことを聞かれて戸惑っていた。何を言いたいのか解らないと思ったからだ。

「小野さんはボクに何が言いたいのかなあ?」
碧は回りくどい言い方を辞めて、ストレートに話した。

「はい、先生に紹介したい方がいるので、お節介しました」
「お節介か・・・ハハハ、面白いことを言うな。誰を紹介したいんだ?」
「結婚相手です」
「はあ?今なんて言った?」
「真剣に交際して頂けるお相手です。大学病院に勤めている医師です。私がお世話になっていた方なんです。とっても綺麗で、優しい人ですよ」
「何で小野さんはボクにその人を紹介したいんだ?」
「早川早苗って言う医師です。心にずっと深い傷があって男の人と付き合えなかったって聞きました。私の心を治療してくれたお返しに、先生を幸せにしてあげたいと思ったんです。清水先生が独身なこと思い出して、それでどうかなあってお聞きしたんです」
「早川先生って言ったね・・・その方の気持はどうなの?ボクの事言ってあるの?」
「いいえ、今話すのが初めてです。清水先生のお気持を聞いてから話そうと思っていましたので」
「ボクは一介の教師だよ。そんな偉い先生とお付合いなんか出来ないよ。まして結婚なんて・・・不釣合いだよ。まだ解らないだろうけどこんな事言っても小野さんには・・・」
「解るよ、先生。男らしくないなあ・・・碧ちょっとがっかりした」
「酷い言い方するなあ・・・堪えるよ、生徒にそう言われては」
「女を幸せにするのはお金や地位じゃないよ。守ってやりたいって言う愛情だよ・・・先生という職業はそのことを教える仕事じゃないの?自分が実践しないで何で人に教えられるの?」
「小野さん・・・驚いたよ、今そう言われて。確かに男はそうなのかも知れないな・・・会ってみるよ、それから考えて返事する。いいかい?」
「うん、それでこそ男だよ・・・ねえ?早川先生って超美人だよ・・・会って驚かないでね」
「そうかい・・・自信なくなってきたよ」
「先生はとっても・・・イケメンだから、お似合いになるよ。任せておいて・・・じゃあ、帰ります。また連絡しますから」

やったあ!と碧は思っていた。早苗が心を許して清水と結婚すれば、きっと素敵な夫婦になると思えたからだ。

清水と話し終えて家に帰る途中で駅に向かって歩いている優を見つけた。駆け寄って、肩を叩いた。
「先生!今帰りですか?」
「あら!碧ちゃん、遅いのね。何してたの?」
「清水先生とお話してたの」
「そう、暗くなるまで学校にいちゃダメよ。一人で帰るのは危険だからね」
「心配性なんだね、先生は・・・大丈夫だよ、ここは毎日歩いているから。それに逃げ足だって、早いから」
「何話していたの?清水先生と」
「言ってもいいのかなあ・・・プライベートな事だけど」
「秘密のことなの?まさか・・・告白したの?」
「冗談きついよ!肇くんがいるのに・・・違うよ、先生に結婚相手を紹介したいって、言ったのよ」
「えっ?結婚相手?誰なのその人って・・・知り合いなの?」
「精神科の早川先生だよ。知っているでしょ?」
「病院でお会いした人ね。顔しか見なかったけど、そうまだ独身でいらしたのね」
「優先生はどう思う?清水先生と早川先生って」
「清水先生は尊敬できるし、優しい方だからきっと気にいって頂けそうに思うけど・・・結婚か・・・そうだったの」
「何?ひょっとして・・・優先生、清水先生のこと関係ないって言ってたけど、気になるの?」
「そうじゃないのよ。確か・・・清水先生近く転勤されるって噂だから・・・どうなのかなあって思ったのよ」
「転勤?どうして・・・」
「さあ・・・よく知らないけど、そういう話を誰かがしていたように思うわ」
「さっき話したときにそんな事言ってくれなかったけど、何でだろうね」
「碧ちゃんに気遣ったのよ。一生懸命に勧めたんでしょ?断りにくかったのかも知れないし」
「明日もう一度聞いてみるよ・・・ちょっとがっかりしたなあ」

清水は何故そのことが本当なら言わなかったのだろう・・・碧はちょっと気を悪くしていたが、やがてそれは優の聞き違いというか思い違いだということが解った。

早苗の病院勤務は原則日曜日が休みになっていた。実家を離れて都内で一人暮らしをしていたから、休みの日はたいてい家から出ることもなく、音楽を聴いたりDVDを観たりして過ごしていた。碧から話がしたいとメールされて、自宅近くのファミレスで昼ごはんを食べる約束をした。あらかじめ清水の写真を携帯に保存して、次は二人で会えるように約束して欲しいと願っていた。

「早苗さんは何食べるの?」碧は二人だけのときはそう呼んでいた。先生って言うのは辞めて欲しいと言われたからだ。まあ、素性を知っているから、そうして欲しいと思ったのだろう。

「碧ちゃんと同じでいいわ・・・」
「じゃあ、パスタにする。それとサラダで」
「碧ちゃん今日も可愛いお洋服ね」
「うん、ありがとう。名古屋の・・・父に買ってもらったんだよ。レギンスはお姉ちゃんのを借りたけど・・・」
「いいわね・・・似合うから。若いって素敵、羨ましいわ。もうどこから見ても可愛いお嬢さんにしか見えないから・・・安心ね」
「後は言葉遣いだけだね・・・けっこう女らしく話しているでしょ?」