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てっしゅう
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「神のいたずら」 第八章 母の心配

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碧は早苗の言った事が、もし本当なら自分の欲望を満たすことで、肇が惑わされてはいけないと思った。それほどに男と女の行為は気持ちを変えてしまうのであろうか・・・今は推し量れない部分でもあった。


碧は結局薬を貰えず診察時間を終えた。姉に来るようにと早苗に言われたが、来てくれるだろうか・・・
肇の意識が変化して勉強が手に付かなくなってはいけない。やはり今の距離で交際しようと考えを変える事にした。ロビーに出ると優が迎えに来てくれていた。

「先生!お待たせ・・・ちょっと遅くなっちゃった」
「いいのよ、今来たところだから・・・さあ、行きましょう」
優は珍しくスカートを穿いていた。それも短めの。
「先生、珍しいね。短いスカートなんて・・・」
「そう?碧ちゃんの可愛い格好を見て真似て買ったのよ。まだいけるかもって・・・どう?」
「全然いいよ。意外に足が細いんだね」知り尽くしていたけど・・・そう言ってみた。

「嬉しいわ・・・今度出かけるときはお揃いになるわね」
「そうだね。ねえ、どこに食べに行くの」
「決めてなかった、そういえば。母が良く知っているから、任せようと思っていたの」
「そう、それならいいけど・・・」
「何か食べたいものでもあるの?いいのよ言っても」
「ううん、先生の好きなところでいいよ」

優の母親、美江子がよく行くファミリーレストランに車を置いて、中に入った。土曜日の昼時なので混雑していた。少し待って禁煙席に座り食べるものを注文した。
「碧ちゃんが、病院に通わなければいけないようにはおばさんには見えないけど、まだ心配なの?」
「もう一年になったよ毎月通って。最初から不安じゃなかったけど、自分のことを一番理解してくれているのが早川先生だったから話をしに通ってきた。でも今日でお終いにする。帰ったらママにそう言うつもりなの」
「そう、良かったわね。優も安心出来るね」
「そうね、碧ちゃんにとっても大きなことだね。一年か・・・私もそろそろ考えないといけないかなあ」
「優・・・まだいいんじゃないの?無理して忘れるなんて出来ないよ。お母さんあなたの気持ちが解るから、自然に忘れる日まで待っていて欲しいわ」
「碧は、先生が新しい恋人を見つけることに賛成だよ。治療を受けていた早川先生も良く似た経験をしてるから好きな人がずっと出来ないでいたみたい。でもね、今日言ってくれたの。忘れるようにするって・・・自分で幸せを探さないとダメだって、そう言ってくれたよ。優先生もそうしないときっとダメになるよ」

優はこの日をきっかけに新しく未来を考えようと思い始めた。

「先生また碧ちゃんにお説教されちゃったね・・・そういえば戸田君とはどうなの?仲良くしているの?」
「今は逢ってないよ。勉強が忙しいから会えなくなるって言われて・・・」
「そうだったの・・・じゃあ、今は?」
「知っているでしょ?事件のこと。肇くんと付き合うようになったよ」
「ええ、卓球部のね。肇くんって、同じクラスの上田君のこと?」
「そう」
「詳しくは聞いてないけど、どうしてあなたが係わってしまったの?」
「肇くんを待ってても来ないから、部室に行ったら、そうなっていたの。可哀想になって、殴った先輩を平手打ちにしたら、押し倒されて・・・傷害で警察に言う!って言ったら、ビビッてた」
「まあ!なんていう事を・・・先生と約束したじゃない!危険な事はしないって。三年生の男子しかいなかったんでしょ?」
「二年生もいたよ。男子だけだけど」
「もし変なことされたらどうするの!それも上田くんが見ている前で・・・考えられないこと無いのよ!そういう事って」
「・・・うん。肇くんが見てたら・・・それは考えなかった。ゴメンなさい先生。碧やっぱり気持ちが先走る・・・こんな身体で男子に勝てるわけないのよね、そう言えば」

美江子は碧がそういう気質であることを見抜いていたから、驚かなかったが、優は気持ちが動揺していた。
「先生と本当に約束して!絶対に男子とそういう事しないって!心配であなたの事、見てられなくなるから・・・」
「大丈夫だよ・・・悪いことをする奴は許せないよ。無視するほうが身体を傷つけられるより辛いから」
「そんな事、男の子が言うセリフよ。女の子には出来ないことだから、解かって・・・ね?先生を泣かせるような事はしないで」

優は今にも泣きそうな表情になっていた。美江子が優しく言葉を掛けて気持ちを抑えるように気遣っていた。

「碧ちゃん・・・優の気持ち少し解かってあげて。あなたの事が大好きなのよ。傷つけたくないって自分のことのように感じているの。親子や兄弟でもないから迷惑でしょうけど、先生のいう事じゃなく優のいう事として受け取って欲しいの」
「はい・・・もうしませんとは言い切れないけど、その場になったら良く考えますから。心配してくれてありがとう」

優はやはり優しい女性だった。その名前のように碧には感じられた。

碧は家に帰って由紀恵にもう早川医師に会わないと話した。一年を過ぎて碧の気持ちがすっかり落ち着いてきたと思っていたから、由紀恵はこの申し出を快く了承した。
「そう・・・もう一年経つのね。碧も元気になれて本当に嬉しいわ。早川先生にはお世話になったからお礼をしなくちゃね」
「ママ、碧ねちょっと考えたことがあるんだけど聞いてくれる?」
「なに?気になるわね」
「うん、早苗先生ね恋人を探したいって言ってたのよ。お医者さんでしょ、忙しくて相手を見つけることが出来なかったから、ずっと一人でいたって。それでね、清水先生はどうかなあって・・・思いついたの。結構イケメンだし・・・公務員だし・・・年齢も変わらないから。どう思う?」
「一年の担任だった先生のこと?」
「そうだよ。ママ知っているでしょ?」
「もちろんよ。素敵な先生だったわよね・・・でもあなたが先生に紹介しようって言うの?」
「ダメ?私しか話す人いないし・・・理由つけて食事に誘って会わせるの。優先生にも協力してもらおうかな」
「前島先生だってひょっとして清水先生のこと気になっていたらちょっと罪よ。そう思わない?」
「それはないよ。聞いているから、優先生に」
「そうだったの、知らなかったから・・・いい話だとは思うけど、なんかおせっかいのような気もするし、どうなのかな」
「誰かがお節介を妬かなければ、結婚なんて出来なかったりするよ。誰も声かけて相手を作ることなんてしないんだから」
「そりゃそうだけど・・・なんだかあなたが子供じゃないみたい」
「子供じゃないよママ!知ってるでしょ」
「そういう意味じゃないのよ、考え方がっていう意味で」
「そうかな・・・ませてるってよく言われるけど、自分では良く解からないよ。とにかく・・・月曜日に清水先生に話してみるから・・・またママに相談するね」
「必ず話してよ。一人で決めちゃわないでね、いい?」
「うん、解かってるよ・・・お姉ちゃんって部屋にいるの?」
「まだ帰って来てないよ。なんで?」
「ちょっとね・・・」

結局その日は12時を回っても帰って来なかったので、そのまま寝てしまった。次の日の朝、起きて弥生の部屋をノックした。
「お姉ちゃん起きてる?」
返事が無かった。下に降りて由紀恵に聞いた。