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てっしゅう
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「神のいたずら」 第八章 母の心配

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「ママ・・・碧は好きな人から求められたら、断らないよ。前はお姉ちゃんにキスまでって言われていたけど、今は思ったようにしていいと言われたの。気持ちは止められないだろうから仕方ないって」
「ママは、興味だけでそうなるのは嫌だけど、碧が本当に好きなら・・・理解できるわよ。でも、妊娠だけは気をつけてね」

由紀恵は本当はまだ早いと思っていた。しかし、自分に話してくれたことが嬉しかった。理解してあげてこそ母親だと思えた。

由紀恵は弥生を呼んで耳打ちした。
「ちょっと心配だから、碧に子供が出来ないようにすること教えておいて。私が話してもいいのだけど、あなたからの方がいいかなあって思ったの」
「多分そんな事話さなくても知ってるよ。そんな気がする」
「そうかも知れないけど、やっぱり話しておいて」
「うん、解ったよ。夜にでも話すから」
「ありがとう・・・あなたは心配ないよね?」
「ママ!・・・もう・・・」

弥生もまだ経験が無かったから、そう言われると自信が無い。部屋に戻ってインターネットで少し調べてみた。「そうだ!これを見せればいいんだ」そう思いついて碧を呼びに行った。

弥生に促されて、画面を見ていた。女性からの避妊については知らなかったので、碧はしっかりと頭に入れた。
「お姉ちゃん、ありがとう。なんとなく解ったから・・・」
「大丈夫?彼にしっかりと話しておきなさいよ。出来ないようにすること」
「うん、それより・・・私が出来る方法でしたいなあ・・・」
「ダメよ、中学生でしょ。買える訳無いじゃないの」
「大丈夫だよ。早川先生に頼むから・・・お姉ちゃんも頼んであげるよ」
「誰?ああ、あなたの主治医ね・・・そうか、その方法でか・・・ママが許すかなあ」
「ママだって使えるし」
「ママってまだ要るのかしら・・・」
「可哀想なことを言うのね、お姉ちゃんは。まだ43歳だよ」
「ほんとだ!いけない・・・ハハハ・・・」
「笑い事じゃないよ。明日電話してみようっと・・・」

「そういえば・・・お姉ちゃんだって俊一さんと初めてになるんでしょ?大丈夫?多分お兄ちゃんは知っているだろうけどね」
「嫌な言い方するのね・・・そんな遊んでいる人じゃないわよ」
「だったら二人とも初めてじゃん!ドキドキだね・・・」
「碧だってそうじゃない。もっとドキドキだよ、その場になったらきっと」
「碧はドキドキしないよ、多分。肇くんは・・・うまく出来ないかも知れないけど・・・」
「すごい自信ね・・・どこから来るの?その気持ちは」
「さあ・・・そう思えるだけ。男子の気持ちがなんとなく理解できるから」
「さすが、お姉さま・・・恐れ入りました」
「もう!・・・あばずれみたいに聞こえるじゃない!」
「変な言葉知っているのね・・・そっちのほうが驚くわ」

碧は第三の土曜日に早苗と会った時に話そうと考えていた。家が近いので優とも久しぶりに話がしたいと思い学校でその日の都合を聞いた。
「先生、今度の土曜日って学校ですか?」
「ううん、その日は母と出かける約束をしているの。なんで?」
「大学病院に行った帰りにちょっと話がしたいなあって思ったので聞きました」
「何時頃になりそうなの?」
「多分11時半頃になると思います」
「じゃあ、母と一緒に昼ごはん食べましょう。一緒でも構わないよね?」
「はい、構いません。家に伺います」
「私たちが病院に車で行くから、待ってて」
「解かりました。では、失礼します」

土曜日にいつもの診察が終わって早苗に姉と話していたことを頼んでみた。
「そうね・・・処方できないことは無いけど、まだ早いんじゃないの?精神的には大人でも、身体が幼いから先生は勧められないなあ・・・」
「先生っていつ頃だったの?初めてのときって」
「えっ?・・・そうね、あなたぐらいの時だったから・・・人のことは言えないわね」
「そうだよ。同級生の詩緒里ちゃんだってもうしたんだよ」
「そう・・・早い遅いじゃないかも知れないわね。好きな人がいるか、いないかよね・・・」
「先生どんな気持ちだったの?良かった?くすぐったかった?」
「くすぐったい?・・・覚えてない・・・言いたくないからそう言うんじゃないのよ。夢中で、あっという間だったから・・・あまり覚えてないの」
「ふ〜ん、あっという間だったの・・・きっと凄く緊張していたんだね。避妊は彼がしたの?」
「しなかった・・・その場の雰囲気でそうなったから」
「えっ?そうだったの・・・大丈夫だった?」
「おかげでね・・・もうその人とは逢わなくなったから、それっきり大人になるまでは無かったのよ」
「なんだか事情があるんだね、先生にも」
「うん、ずっとその人の事好きだったから・・・今日まで恋愛が出来なかった。医者になってからは忙しいから尚更そうなっていた」
「忘れなきゃダメだよ。思い出の人より一緒に歩ける人の方が大切なんだよ、先生・・・」
「ありがとう、そうね・・・あなたの言う通りかも知れないね」

碧は早苗の心の中を垣間見た気がした。

早苗が一年前に病院で碧の相手をしたとき、隼人の恋人が抱いている悲しみを、解りすぎるぐらいに感じてしまった。それは、自分自身も初めて経験した恋人を中学3年のときに事故で亡くしてしまったからだ。ウツ状態になった自分の治療をしてくれた医師を見て、将来自分もこの道に進みたいと今に至った。

そろそろ自分のことも考えなくてはと思い始めてはいた。けれど、心の中にあいた穴が塞がらない。忘れたいと何人かと付き合いはした。しかし長続き出来なかった。それは・・・身体を求められたときに拒否反応が出てしまったからだ。もうすっかり大人なのに・・・そのことは相手を拒否することと同じだから、別れになってしまっていた。

碧がそうなると言うのではないが、自分のことを思い出すともう少し大人になってからでも遅くはないと思えるのだ。幼い心は傷つきやすい。精神的にももろいのだ。

「先生・・・隼人としてはもう優を開放してやりたいって思う。いつまでも過去の人に気持ちを奪われていてはいけないって・・・この後優先生と会うから、そう話すつもりなんだ。自分で幸せを掴まないと向こうから歩いてこないから、いつか悲しみと決別しなければ進んで行かないって言ってあげたい」
「碧ちゃん・・・あなたの言うことは私にも通じることなのよね。中学のときからずっと忘れられなかった思いを断ち切らないと始まらないから・・・」
「先生、碧は好きな人がいるの。話したでしょ・・・あんな事があったから、人間なんていつどうなるか解らない。お互いが求めるのなら、許そうってそう考えるのは浅はか?」
「ううん、私は自分が中学のときに経験したことを浅はかなんて思ってないよ。そうするしかなかったし、そうしたいって思えたからね。でもね、碧ちゃんの彼があなたほど精神的に大人かどうか解らないから、そうなった時に惑わされないかって心配なの」
「惑わされる?・・・病み付きになるって言うこと?」
「あなたに夢中になるだけでなく、今までより強い束縛感や嫉妬が芽生えて、勉強に悪影響が出るかも知れないって考えてしまうの。あなたはいいでしょうけど・・・」