予言者
浴室に隣接する洗面所には、本当に剃刀とシェービングフォームがあった。顔を洗って髭を剃り、戻って衣服を着た彼は、気付いて時刻を確認した。午前七時半。漸く脳が働き始めた。
瑠美のアパートを出て五分程歩くと、ドアに「OPEN」という札を掲げた昨日の喫茶店があった。時刻は七時四十分になろうとしている。このまま素通りすると始業時刻の四十分前に出社することになる。
「おはようございます。いらっしゃいませ」
「おはようございます……コーヒーを頂きたいんですが」
今日はカウンター席にした。
「ブレンドでよろしいでしょうか」
「昨日、お嬢さんに淹れてもらったんですが……」
「じゃあ、うちのオリジナルブレンドです」
初老の男はにこやかに云った。典型的な優しい雰囲気の男である。彼は磨いていたグラスを置いてからミルに豆を入れ、サイフォンに粉を移した。
「ここのコーヒーを飲んだらもう、ほかでは飲めませんね」