予言者
「そう。お客様というのは嘘」
「さて、行くか」
「もう?来週の金曜日の夜、ここに来るよね」
「うん。噴火を見に行くためにね」
「冗談じゃなく本当に行く気なの?」
「噴火を見たいからね」
「そうなんだ。コーヒーの代金は、ここではお客様が決めるのよ」
「へえ、じゃあ、千円にしよう。もっと価値があるとは思うけどね」
「この前のお客様は……」
「一万円?」
「三万円出されたけど、二枚返したって、云ってた」
「じゃあ当たりだ」
「そうね……金曜日、何時?」
「夜の八時に来て、ステーキを食べようかな」
「わかった」
午後四時三十分を過ぎてからそこを出た柿崎は、駅へ向かった。青空も雲も街路樹も、普段より美しい。実に愉しい気分だ。あの店に戻ってもう一杯、あのコーヒーを飲みたい。だが、仕事中なので我慢するしかない。