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TAKARA 未来
TAKARA 未来
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犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌

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「駒沢君は、横流しにこの場所が、時として利用されていることを突き止めている。そればかりじゃない。その、警察を
裏切った者が、君達四人の中にいると考えていたんだ」

 重苦しい沈黙が、俺たち四人の周囲を覆った。
 だから和代は、このところ、妙によそよそしかったのか。
 しかし、恋人に疑われるなんて、実に情けない。……
 再び、俺の目が潤み、涙があふれてきた。
 その水流を、せき止めるすべはない。

「ところで、駒沢君が亡くなる直前、何かを伝えようとしたそうだね、加山君」
 栗巣警部が、俺の方を向いた。
「はい、確かに。犯人はわたし……だと」
「えっ、わたしって、彼女自身のことなのか?」
「違うと思います。犯人の名前を伝えようとしていたと、和代、いえ駒沢警部補の必死な様子からみて思います」
「私も同意見です」
 そのように、一緒に彼女のダイイング・メッセージを聞いた、愛野警部補も断言した。
「わたし……一体、何を意味しているのか」
 本庁の誇る二人の名警部も、そろってかたく両腕を組み、謎のダイイング・メッセージに悩む様相を呈していた。

 ”犯人はわたし”――彼女は、何を伝えたかったのか?

「ともかく、君達を、取り調べさせてもらおう」
 外にいた刑事から、報告を受けた栗巣警部は、神妙な顔つきで俺たちに向き直った。
 それは、常日頃、警部が漂わせている温和な表情とは、全く乖離したものだ。太い眉毛が、心なしか、けいれんし
ているように見える。
 隣の阿賀佐警部――栗巣警部と同じ年齢――も、彫りの深い顔立ちに、険しさを浮かべている。

「周辺調査が徹底されたようで、今、その報告があったところだ。それによると、やはり、この建物に外部から出入り
した人物はなく、隠れている者もいないことがわかった。床下や屋根裏、屋根の上や木にもいない。また、生い茂って
いる草木に隠れて、途中でベランダから庭に降りた人間がいたとしても、外からは見えない」
 栗巣警部は、俺たち四人を見回して、
「周囲に、犯人に関する遺留品も全くない。ゴミはあったが、いずれも古くからあるもののようで、今回の事件には
関係ない。もちろん、庭土を掘って、何かを隠した形跡もない」
「では、犯人は、空中に消えたと言うのでしょうか?」
 俺は、重苦しい雰囲気に耐え切れず、こわごわとした口調で質問した。
 俺の視線の先には、埃だらけのカーペットに横たわる、和代の遺体――シーツをかけられている――が映った。

「そんなトリックを使った跡は、今のところ見つかっていない。加山君、気持ちはわかるが、私情をはさまないことだ。
これは、現実の犯罪で、君は現役の刑事だ。駒沢君がパズル好きだからと言って、そんなミステリーじみた方法を持ち
だすなんて、実にナンセンスだよ」
「それならば、栗巣警部。犯人は、どうやって消えたのでしょうか? 我々の中に犯人がいる可能性が高いと言って
も、それ以外の可能性もありえませんか。白昼の悪魔のような狡猾な奴ならば、想定外のトリックを使って、ここ
から脱出したかもしれませんが……」
 と、推理小説好きな鈴村が、反論するように質問した。
「それこそ、これから調べるところだよ。誰も空中に浮かぶ物体を見ていない。……また、敷地周辺にいた刑事は、
いずれも単独行動をとっていない。なおかつ、その姿を、近くを散歩していた、三人の老人が目撃している。
要するに、今回、単独行動をとったのは、駒沢君を含めて、五人しかいないんだ」
 その、栗巣警部の発言に、阿賀佐警部が言葉を続けた。
「各自、単独行動で捜索するように、事前打ち合わせで、駒沢君から指示があったと思う。それも、駒沢君の計画
だった。君達の一人をあぶりだす……おそらく、駒沢君は、誰が覚せい剤を横流ししていたのか、うすうす、
感づいていたのだろうな」
「そう、君達の一人だと」
 栗巣警部も、渋面でうなずいた。