小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
TAKARA 未来
TAKARA 未来
novelistID. 29325
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌

INDEX|6ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

 短い一生を終えた和代は、今、俺の腕の中で眠っている。
 胸から流れ出す血は、俺の腕に垂れ、床にしずくを落としている。
 和代の閉じた両目は、もはや開くことがない。
 口元は、苦しそうにゆがんだままである。
 俺は、そっと恋人の体を床に下ろした。俺の背広も、両手も血まみれ……和代の胸の隆起も、赤く染まっている。
 白いハンドバッグには、血が付いていない。

「誰が……」
「加山君、誰か、犯人らしき人物を見たか?」
 愛野警部補が、和代に黙祷を捧げた後、血の付いた両手を拭おうとしていない俺に尋ねた。
「いいえ、誰も見ていません。倒れていた和代しか、室内にはいませんでした」
「階段を降りてきた者はいないのか?」
 四人の中で、一番年長者である、関本巡査部長が、悲痛そうな面持ちで、俺に顔を向けた。
「俺は、見ていません」
「私もみていない」
 愛野警部補もそう言うと、他の二人も同じ返事をした。
「すると、ベランダから逃げたのだろうか?」
 まぶしい西日が、その掃き出し窓から、まともに入り込み、死者の顔を照らしている。

「我々だけで処理できない。応援が必要だ」
 そう言うと、愛野警部補は、黒い携帯電話を取り出した。
「この周囲の六人の刑事には、ここから逃げ出した奴、もしくは逃げ出そうとする者がいないか、今も見張ってもら
っている。今のところ、誰も怪しい人間はみていないらしい」
 愛野警部補は、俺達にこのように伝えると、本庁に応援や鑑識を呼ぶ手配をした。

 絶命して横たわっている和代を、救急車で運ぶことはできない。
 和代殺害の現場検証……まさか、こんな場面に出くわすなんて。
 この動かぬ指に、近い将来、この手で、婚約指輪をはめるはずだったのに……、どうして、こんな悲劇に見舞われ
ることになってしまったのだろうか。

「ベランダから、桜の枝を伝われば、外に逃げ出すことは可能ですね」
 開いた窓を調べていた巡査部長は、自ら、手袋をはめた手で、枝にしがみついてゆすっていた。枝と一緒に、
巡査部長の、黒いスーツも揺れる。
「意外に、この枝は弱いぞ」
「俺が枝につかまったら、折れてしまいそうですよ」
 と、巨漢――警視庁の巨漢ビッグ4の一人と呼ばれている――の鈴村も、その枝をゆすりながら応じている。

 俺も含めて、ここに突入した刑事は、当然のことながら、皆手袋をはめている。また、誰一人として、捜索前後で、
服装を変えた者はいない。
 しかし、和代の両手には、手袋が装着されていない。
 確かに、突入前に手袋をはめたはずなのに……。
 服装は、血がついている以外、変わっていないのに。

 遠くから、パトカー・救急車のサイレンが伝わってくる。