犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌
この建物に、今現在、何者かがひそんでいるか、不明である。
誰もいなくても、大麻などの証拠品が押収できるのではないかと、俺達は令状のもと、家宅捜索を行うことになっている。
中に入ったメンバーは打ち合わせ通り、俺、和代、愛野警部補、関本巡査部長、鈴村の五人である。
五人は、用心しながら、それぞれ単独で捜索をし、何かあったら、大声で叫ぶか携帯で連絡しあう予定だ。
和代は、四人を一階に置いて、一人で二階に上がって行く。きしむ階段の音が耳障りに響く。
国税局の許可があり、全員行動しやすいように土足のままだ。
他の六人の刑事は、敷地周辺に、二人ペアで誰か怪しい人間が出入りしないか見張ることになっている。
周囲に人家がないことから、隠れて六人は見張ることになっている。幸い、敷地へ誰かが近づけば、見落とすこと
のない位置をキープすることができたことが、後に判明している。
しかし……本日の捜査に意味があるのか、俺には、はなはだ疑問であった。本当に何者かが利用しているの
ならば、昼夜を問わず、周辺を張りこむべきではないのか。
キャリアの考えることは、俺には理解できない。……
広い建物のためか、部屋数が実に多い。
二階に行った和代の後姿を見てから、俺たち四人は、別行動をとった。予定通り、俺は、一階の浴室から調べている。そこ
の鏡は横にひび割れていて、物をゆがめて映し出している。
俺の顔が、邪悪な家の住人のようになっている。
鈴村の奴が、裏庭の倉庫かよと、文句を言いながら出て行ったことに比べれば、まだいいだろう。
俺が、自分を慰めた時だった。
ブルブル!
浴室にいた俺の携帯に、メールが届いた。
このバイブ振動は、和代からのメールだ。
何か、変事があったのか?
”至急、二階に来て! 階段を昇った、一番奥の部屋へ!”
二階の部屋すべてを一人で調べる予定の、和代からのメールが、3時55分に届いた――後で、この時刻は、俺の勘違いで
も携帯の時計が狂っていたのでもなく、実に正確だったことが、捜査の結果判明している。
俺は、誰にも言わず、別荘に一つしかない階段を、急いで駆け上った。すれ違う者はいない。
踏み板が、ぎいぎいと鳴る。
吐く息が、ぜいぜいと弾む。
そして、メール着信後、5分もしないうちに、和代の指摘した部屋のドアをノックしていた。
「和代!」
しかし……中からは、返事がない。
何やら、胸騒ぎがする。
俺は、灰色のドアに右耳を当てた。
かすかに、中から、人の荒い息が聞こえるようだ。
俺は、懐の武器を確かめながら、さっとドアを開けた。
古びた寝室に、崩れ落ちそうなベッドが、二台仲良く並ぶ。ベランダの手すりには、木の枝が寄りかかっている――先ほど、外で目にしたのと同じ葉桜だ。
部屋の中を、右手を懐に入れながら見回す。……
すぐに、俺の体が、ある地点で硬直した。
そこに見た光景は、到底、信じられないものだった。
変わり果てた和代の姿……。
「和代!」
俺は、一瞬躊躇したが、悲痛な声を発して、彼女の元に突進した。
作品名:犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌 作家名:TAKARA 未来