犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌
「ご苦労様です」
白いハンドバッグを持った和代が、先に着いた俺達四人にすかさず声をかけた。
先ほどまでと異なり、きりりとした刑事の顔だ。憂いの色は、どこかに失せている。
和代は俺を見て、かすかに微笑んだ。
その笑顔――今が二人っきりならばよかったのに。
「打ち合わせ通り、始めよう」
愛野警部補の合図を聞くと、俺は、ズボンのポケットから、国税局から預かった鍵を取り出した。
犯罪組織に利用されている可能性があるなら、鍵の交換をすべきだと鈴村は主張した。しかし、逆にその連中に利用さ
せ、現行犯逮捕すべきとの和代の意見が通り、国税局も渋りながら、鍵は差し押さえた時と同じものになっている。
二階のベランダに、葉桜の枝が、だらしなく寄りかかっている。
玄関の鍵は、音もなく、すんなりと開いた。
「やはり、何者かが使用しているようね」
と、和代は誰に聞かせるともなく、静かにつぶやいた。
中に入る五人のメンバーは、全員白い手袋を着用した。
和代が先頭を切って、さっさと中に突入した。
ここで、もう少し、この建物――廃墟の事情を説明しておこう。
この別荘の所有者は、かつて、表向きは不動産売買業を営み、裏では非合法組織と手を結び、闇金融なども行って
いたようだ。
その人物は現在、組織の抗争の巻き添えになり、墓石の下で眠りについている。
国税局が差し押さえたのは、表向きの税金滞納を理由としているが、警察庁幹部からの暴力団対策指示もあって、
警視庁も関与している。
差押時、国税局の物件調査の名目で、警視庁から、和代をはじめ、主にキャリア組が、建物に隠し部屋などがない
か、などを捜索したとのことだ。
特に怪しい部屋はなかったらしい。
今回、建物内に入るメンバー五人の中で、内部に入ったのは、和代ただ一人。……なぜ、彼女以外にも、捜索した
ノンキャリアの刑事もいたのに、誰も選ばれていないのだろうか。
捜索経験者はいずれも、外で待機しているメンバーにはなっているが……。
そんな疑念を抱きながら、今回の内部捜索が、始まろうとしている。
作品名:犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌 作家名:TAKARA 未来