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TAKARA 未来
TAKARA 未来
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犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌

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1:誰かいるのか



 ざわざわと、夕方の風がそよぐ。

 目的地に到着した。
 西日を背景に、誰も住んでいない二階建ての別荘が浮かび上がっている。税金滞納を理由として、先月から、国税局が差押えしている物件だ。
 薄緑色の古い建物で、土地以外に価値はない。
 競売予定であり、購入した者は、きっと早々に、建物を壊すはずだ。国は、現況売買が原則のため、勝手には壊せない。
そのように、税金や投資に詳しい、愛野警部補が、後部座席から、皆に語ってくれた。
「壊した方が、かえって売りやすいですよね、きっと」
 と、運転していた俺は、直属の上司に尋ねた。
「規則だよ、仕方ないだろう。土地に価値があると言っても、500坪もあるのだから。まあ、俺には一生買えない代物だがな」
 と、愛野昇一警部補は、そのがらがら声を発した。
「駒沢君との新居を建てるため、この土地を購入したらどうだ」
 愛野警部補と並んで座っている、関本武志巡査部長が、茶化すような口調で、太い声を投げつけてきた。
「関本巡査部長、加山には無理ですよ。駒沢君の尻の下を確保するのが、精一杯ですから」
 調理師免許を持っている、変り種の巡査部長に、助手席の鈴村雅彦が、俺を馬鹿にしたように答えた。
 俺以外の三人から、かすかな笑い声が漏れた。
 大きなお世話だ。
 バックミラーに映った俺の目つきは、眼鏡の中で怒った空気を醸し出していた。

 手入れされていない、庭の樹木が、かすかに葉を揺らしている。
 
 覆面パトカーから、俺を含めて、ノンキャリア組の四人が降り立った。
 郊外の別荘の周囲には、人家が見当たらない。
 建物の周囲には、薄緑色の雑草が生い茂っている。木々の枝は、その意の向くまま、乱雑に腕を伸ばしている。
 1階の窓は、緑のカーテンに隠されている状態だ。

「この場所なら、確かに大麻の取引所に使えるなあ」
 額の汗を拭きながら、出っ歯の愛野警部補はつぶやいた。
「和代……いえ、駒沢警部補のつかんだ情報によりますと、大麻取引だけでなく、家出少女なども監禁しているそうです」
 公私混同しかけた俺に、警部補は、にやりと笑いかけた。
「今のは聞かなかったことにしよう。……しかし、駒沢君は大したものだ。こんな情報を、どこから探し出してきたのか。
俺の知っている情報屋の誰も、全く聞いたことがないらしい」
「人の気配はしないぞ」
 と、長身の関本巡査部長が、手を額にかざしながら、逆光の中に浮かぶ廃屋を、険しい表情で見つめていた。
 細身の巡査部長は、夏だというのに、いつものように黒の背広を着用している。暑くないのだろうか?
 俺は、背中ににじみ出る汗を体感しながら、愛用している、茶色いスーツの襟を直した。

 せみの声が、大地をも震わせている。
 別の振動が俺の両足に伝わり、二台の覆面パトカーが到着した。
 運転していた和代を含め、合計七人の私服刑事が、この地上に足を踏み降ろした。