犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌
俺は、驚いて両警部の顔を見た。
二人とも、自身に満ち溢れた雰囲気を漂わせている。
他の三人も、信じられない表情になっている。
「状況を整理・再構成してみると、駒沢君の死は、凶器の刺された力の入り方などから、自殺ではなく殺人だという
ことはわかっている。また、凶器に指紋がないことからも素手だった彼女ではありえない」
「栗巣警部、例えば自殺だったのを、駆けつけた加山君が、ナイフの指紋を拭いたりして、他殺に見せかけたという可能
性はないでしょうか? 他人に言えない事情から、自殺を図り、依願されて加山君がそれを幇助したならば、犯人は
いないことになりませんか?」
「関本君、みんなのことを心配して、殺人犯がいなければと考えた発言だろう、それは。だが、ありえない。もし、
自殺を幇助したならば、なぜ覚せい剤を彼女のバッグに入れる必要があるのかね。正体不明の人物に殺されたと偽装する
ならば、バッグにそんな物を入れる必要はない。さらに、近々婚約予定で、不治の病も抱えていない彼女の自殺の動機
がないじゃないか」
関本巡査部長は、俺をかばいだてようとしたのか。
「犯人の闘争方法については、桜の木をつたって降りたと仮定するならば、体重制限で鈴村君には無理だとわかる。
しかし、ネクタイを輪投げのようにして、離れた丈夫な他の枝にくくりつけられたならば、ネクタイにしがみついて
飛び乗ることも可能になる。そうなった場合、彼にも可能になる」
「そこで、私と栗巣警部は、可能性がいくつかあって、一つに断定できないことは後回しにして、犯人を特定できる二つ
のミスから調べていくことにしたんだ」
そう言うと、阿賀佐警部は、俺たちを見回した。
「この事件は、完全な計画の元で行われていない。なぜなら、駒沢君の最近の様子と家宅捜索の場所から、犯人が身の危険を
感じていたにしても、当日の彼女の行動が予測できなかったことから、事前に犯行現場周辺にトリックを仕掛けておくことが
できない。楠花警部と徹底的に調べたが、当然のことながら、そんな痕跡もなかった。……いざという時のために、保持して
いたナイフは、犯人の役には立ったようだがな」
「すると、こういう問題になる。犯人は、音の出ない刺殺を選んだ結果、どうやって返り血を処理したのか。状況から、返り
血を浴びずにすませることはできない。仮に、事前に替えの服や、上に羽織るものを用意していたとしても、犯行現場周辺
から、そのような物は一切見つかっていない。ルミノール反応からも考えると、犯人が何らかのトリックを用いて、返り血
を浴びないようにしたと考えることは不可能だ」
ここで、阿賀佐警部が、俺に向けた視線を止めた。
「加山君、あの時、浴びた返り血を処分する唯一の方法は、返り血がついてもおかしくない状況を作り出す以外には、
とりようがないのだよ。つまり、ナイフで刺した後、恋人として、愛する女性を介抱し、その血が付着しても不自然
ではなかった君こそ、我々が求めた犯人なのだ!」
作品名:犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌 作家名:TAKARA 未来