犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌
俺は、椅子から転げ落ちそうになった。
「馬鹿なことを言わないでください!」
俺と一緒に容疑者にされた他の三人が、驚愕・困惑を隠せずにこちらに視線を向けている。
鈴村の目には、怒りの色が浮かんでいる。
「いや、君が犯人だ、加山君。おそらく、彼女にナイフを両手で持ったまま飛び掛った君は、返り血を浴びたことに気が付いたのだろう。処分する時間も方法もない。
君にとっては幸いにも、刺す前に、彼女が呼んだのは君だけだと聞いていただろう。だから、死ぬ前を見計らって、他の三人に来るように連絡すれば、彼女を介抱しようと
している姿が目に映る――まさか、刺した本人とは思われまいと」
「阿賀佐警部、いくらなんでも、ひどい言いがかりです。なるほど、返り血の処分方法が見つからないから俺が犯人なんて、何か未知のトリックが使われていた可能性だって
ありうるじゃないですか! 本庁の誰も気づいていないだけで……」
俺は、すっかり興奮した口調になっていた。
このままでは、俺が犯人にされてしまう。何か可能性のあるトリックはないのか?
「君の犯した失策の一つが、返り血の問題だ」
と、栗巣警部も、俺を犯人と断定した口調で、
「確かに、君の言うように、我々の想像できないトリックが使われた可能性も、それこそ万に一つぐらいはありうるかもしれない。しかし、もう一つ、君は言い逃れできない
ミスを犯している。その二つのミスから、君が犯人だということは、実は早い段階からわかっていたんだ」
「お、俺が、何をミスしたと言うのですか、もう一つ?」
喉が、焼け付くように、ヒリヒリと痛んできた。
「もう一つのミスかね? 時間だよ、加山君」
「時間がどうかしたのですか? 犯行時刻が違っていて、実はもっと早いなんてことはありえませんよ」
「そんな馬鹿なことじゃない」
栗巣警部は、悲しげな表情になった。
「君だけじゃなく、できればこの中から、犯人が出てはほしくなかった。それなのに、まだとぼけようとしているのか。残念だ」
「ですから、時間って何ですか?」
俺は、いらいらとしてきた。
「君の証言した時間の矛盾だよ」
「矛盾なんて何も……」
「いいから、黙って聞きたまえ。立とうとしなくてもいい。それから、逃げようとしても無駄だよ、周りは刑事だからな。
……こういうことだよ。君が、駒沢君からメールを受信し、すぐに駆け付けたのは、多少の前後はあっても、メール着信
時間と、君自身の証言と、愛野警部補の証言から、4時になる直前であることは間違いない」
「そうです、すぐにとんで行きましたから」
「そして、すぐに彼女を見つけたそうだね?」
「はい」
「刺されている彼女に気が付き、慌てて抱き起こそうとし、三人にすぐ、刺されたことを知らせるメールを一斉にした
とのことだったね」
「間違いありません」
「それならば」
栗巣警部の口調が、突然厳しいものに変化した。
「君がすぐに送信したと言うメールが、4時10分と、あの場所で10分もたってから、みんなに届いたのはなぜかね?」
作品名:犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌 作家名:TAKARA 未来