犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌
6:それは、わたし
その銃口は、明らかに俺を狙っていた。
非番の俺は、拳銃を本庁に預けているので、戦える武器は、この素手しかない。
ドアの隙間から、まっすぐに伸びた腕。
全開とともに、見覚えある顔が、逆光の中で、浮かび上がった。
「お前は!」
「加山、やはり、お前が犯人だったようだな」
相手は、血走った目をしていた。
「俺の話したヒントを元に、やはり和代の部屋に忍び込んで何を、こそこそしていやがったんだ? 証拠隠滅か!
あいにく、お前のことは栗巣警部にも阿賀佐警部にも話済みだ。さあ、おとなしく観念するんだな」
「待った。なぜ、俺が犯人だと?」
「ダイイング・メッセージだよ。あれは、お前のことを示している」
「どう解釈したら、俺だって……?」
相手の男は、口元に冷笑を浮かべた。
「決まっているだろう。”わたしの彼”と言いかけたのに……」
銃口に狙われたままの俺の心臓が、思い切り高鳴るのを感じた。
「だったら、”わたしの元彼”だったかもしれないじゃないか、鈴村」
俺は相手の男――鈴村を指差した。
「お前、知っていたのか……」
鈴村の丸顔に、慌てた様子が浮かんだ。
「パズル好きで半年付き合ったが、お互いのフィーリングが合わず半年で別れた。肉体関係まではなかったが、恋人
だったことは間違いない。今でも仲のいい友達だし、お前と和代とのことは、素直に祝福していた。だから、お前に
は過去のことは言えなかった」
「つい最近、お前達のことは知ったばかりだ。どんな理由があれ、今は、お前を信じることはできない!」
「信じてくれと言っても無駄だろうな。だが、和代を殺したことは、友人として刑事として許せない!」
鈴村は、俺が真犯人だと思い込んでいるのか?
「だが、鈴村、お前の解釈も、今、俺が言った内容の、どちらでもないぞ、和代のメッセージの意味は。ついさっき
俺にはわかった」
俺は、自分に向けられた銃口を見ながら、床に落としたままの本を拾って、目の前に突き出した。
「和代の好きだったミステリーだ」
「それは……ヴァン・ダインの”僧正殺人事件”じゃないか」
「そうだ、ここにヒントがあった、ダイイング・メッセージの」
「どうして、”僧正殺人事件”が……?」
俺は、この件を栗巣警部・阿賀佐警部に、一緒に報告しようと、元恋人を殺されて、冷静さを失った鈴村を説得した。
今日非番だった俺は、和代の部屋には地下鉄を使って来たので、汗臭い男の車で、本庁に向かうことになった。
「お前の推理を教えろよ」
鈴村の車中で、俺は何度も運転する巨漢の男にせがまれたが、それは皆の前――両警部に連絡をとって、関係している
愛野警部補・関本巡査部長も立ち会って、報告を受けることに段取りがとられていた――でと、かたくなに拒否をした。
「名探偵のつもりか?」
「そうじゃない。この事件は、俺たちが担当していないから、勝手に処理をしてはいけないからだ」
「随分、理性的……刑事の鏡だな」
俺は、鈴村の皮肉をやり過ごした。
どうやって、追い詰めていけるか。
栗巣警部・阿賀佐警部に、どのように納得いく解釈ができるか。
車中で無口になった俺は、頭の中で、そのことばかりをずっと考えていた。
作品名:犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌 作家名:TAKARA 未来