犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌
俺は、舞い戻ってきた。
ダイイング・メッセージを解明するヒントは、きっとここにあると考えて……。
鈴村に言われたように、俺はこの部屋――和代が一人暮らしをしていたアパートの一室――の合鍵を、まだ持って
いる。
昨日会った、彼女の両親は、まだ気持ちの整理がつかないので、遺品の引き取りにうかがうことができないと、
特に母親の方が、泣きながら語っていた。
和代の部屋……思い出が、部屋中を駆け回っている。もう、和代と語り合い、抱き合うこともできない。
閉め切られていた部屋は、むっとした空気がよどんでいる。だが、エアコンをつける気にはならない。
既に、犯人の手掛かりがないかと、栗巣警部・阿賀佐警部の指揮下で捜索済である。結果、何も見つからなかったらしい。
当然のことであろうが、大麻・覚せい剤の類もなかったとのことだ。
パソコン内部に、今回の事件に関するデータがないかと解析した結果も、芳しいものではなかったと聞いている。
彼女自身のプライベートなことのみ――俺との思い出アルバムや、結婚式場のデータばかりだったと……。
恋人だった、俺にしかわからないヒントはないか?
ダイイング・メッセージで、彼女は何を伝えたかったのだろうか?
二人で過ごしたベッドも、むなしい感傷になっている。
ふと、見回していた俺の視線が、机の上で止まった。
パズル好きだった和代の買っていた、パズル雑誌が、そこに整然と置かれていた。
そういえば、数字を使ったパズルが得意だった。手先が器用で、マジックも得意だったな。カードマジックで、
彼女がひらいたトランプから、どのように俺がひねっても、和代の思う札をいつも取らされていた。
そのたびごとに、和代は笑っていた……。
歌や童謡も好きで、小さい頃の望みは、保母であったと、和代の両親は、焼けた骨を拾いながらつぶやいていた。
パズル雑誌や、推理小説に混じって、童謡の本もある。子供じみていた彼女……。
机の上に、彼女が特に好きだった、一冊の推理小説が立てかけられている。手にとって、ぱらぱらとめくって
みる。解決の糸口になるようなメモはない。
はたと、俺の手から、彼女の本が床のフローリングに落ちた。
これかもしれない! 和代のダイイング・メッセージが意味したことは。
だが、その場合、どうやって犯行が行われたのだろうか?
しばらくの間、本を拾うことなく、俺は考え込んでいた。
ひらめいた!
そうだ、それならば可能だ。
これ以上の長居は無用だ。
退出しようとして、玄関に来た時だった。
鍵を開けたままにしておいた、玄関ドアがゆっくりと開いた。
心臓が踊り出すのを抑えきれなかった。
ドアの隙間から、腕が伸びてきた。そして、その先には俺を狙う銃口が黒光りしていた。
作品名:犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌 作家名:TAKARA 未来