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TAKARA 未来
TAKARA 未来
novelistID. 29325
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犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌

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 和代の葬儀の翌日、俺は非番だった。
 どこかに遊びに行く気分にはなれない。
 何かヒントはないかと考え、”犯人はわたし”とネット検索したが、これといってめぼしい情報は得られなかった。
 俺にかけられた容疑を、自力で晴らすことはできないか。
 じっと、捜査の経緯を待つ他ないのか。
 朝からまとわりつくハエを追い払いながら、悶々としていた。
 さて、どうしようか。……

 いつのまにか、俺は車を走らせていた。
 俺の視点で見直したい。
 誰にも内緒で、犯行現場を訪れることにした。
 刑事としての執念が、この俺を突き動かしている。

 猛暑が続いている。
 
 事件以来、犯行現場は立入禁止になっている。建物の鍵も交換されており、中に入ることはできない。
外周を観察していくことで、何かヒントは得られないか?
 夏の日差しが、視界をさえぎる中、俺は、犯行現場に面するベランダを見上げた。
 かつて、壁面にへばりついていた縦樋は、今やその役割を終え、ぐらぐらと揺れている。人を支える力がないこと
は、既に犯行時に確認されている。
 縦樋が、壁への支えを失ったのは、錆の状況から、ずっと以前であることも推測されている。
 二階から、何者かが樋をつたって降りた可能性はない。
 ベランダに枝を伸ばしている、桜の木以外には、ベランダ手すりに接している物はない。
 一番近い木の枝で、手すりから五メートルは離れている。その枝は大層太く、100キロ以上の重量を支えられるこ
とが判明している。
 しかし、どう手や足を伸ばしたところで、その先端に触れることは、物理的に不可能である。
 手が伸びれば……。
 待てよ、あの時、男は皆、ネクタイをしていた。
 そのネクタイを利用すれば、方法はないだろうか?
 駄目だ、俺の頭では何も浮かばない。栗巣警部・阿賀佐警部に話をしてみようか。あの二人ならば、素晴らしい
推理をして、何か活路を切り開いてくれるはずだ。

 俺は、心理の迷路から抜け出せない状態だ。

 周囲より敷地が、やや小高くなっている上に、庭に雑然と生えている木々や、背の高い草のため、確かに敷地外か
ら、ベランダ近辺・庭は死角になってしまっている。
 徹底捜査の折に、倒された草が、茶色に色を変化させつつある。土の色に同化されそうだ。
 庭土は固く、掘り起こした形跡もなく、雨の不足により足跡もつかない状態である。

 打開策はないのか?
 その時、突然後ろで、不審な音がした。

 驚いて振り向く。
 まだ起きている草が、ざわざわと動いている。
 そして、さっと、何かが飛び出した。
 黒猫だ!
 庭を歩いていた雀が、大慌てで、宙に飛び立った。
 空を舞う小鳥を、俺と猫は見上げた。
驚かせやがって……と、雀は言いたそうだ。しかし、同じ雀や猫があの時庭にいたとしても、もの言えぬ証人であるの
で、何の役にも立たない。
 もちろん、猫にひっかかれた者もいなかった。
 水はけのよい乾いた土には、俺が今歩いた足跡もつかない。
 犯行時も、確認できた足跡はなく、裏庭にいたと言う、鈴村の靴だけに、草の汁や庭の土が付着していた程度で
ある。もちろん、庭も裏庭も同じ土質である。
 鈴村の奴か……。
 あいつと和代が付き合っていたなんて、何も言われたことがなく、愛野警部補に指摘されるまで、全く部外者
状態であった。
 お互いの過去には一切触れていなかったが、何だか騙されていたような気持ちにさえ、覚えてならない。
 パズル好きのあの二人……。

 鈴村の指摘を、ふと思い出した。
 そうだ、ヒントはこの場所ではなく、あそこにあるかもしれない。
 俺は、犯行現場周辺から、急いで立ち去ることにした。 目指すは……。