犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌
「また、返り血を浴びたはずの犯人が、それをどのように隠滅したのかも不明なんだ。どこにも、隠された衣類・
ビニール袋のような自分を守る物は発見されていない。おまけに、建物内部に置かれていた、すべての小道具その
他いずれにも、ルミノール反応は出なかったらしい」
愛野警部補の言葉に、関本巡査部長が反応して、
「鈴村君、君が調べた時、倉庫に袋のような物があって、犯行後、消失した物はなかったかね?」
鈴村は、太い首を横に振った。
「同じことを、犯行当日、阿賀佐警部に質問され、一緒に倉庫へ行きましたが、紛失していた物はありませんでした。加山
からのメールが到着した時、丁度倉庫内部の備品を、すべて確認し終わったところでしたので、容易に確認できました。
倉庫を離れて二階に行く時、その位置をすべて記憶しておいたので、間違いありません。阿賀佐警部と後で見た時、なくな
った物がないばかりか、何一つ動かされた様子もなかったことを覚えています」
鈴村は、記憶力のいい男だと周囲から評価が高い。
「ますます、俺が第一容疑者への道を進むばかりですね」
俺は、やりきれない思いになった。
その言葉に、しばし沈黙が流れ、各自のグラスが口に運ばれた。
「しかし、最大の謎は、あのダイイング・メッセージじゃないでしょうか」
と、パズル好きな巨漢が、静けさを破った。
「それは、私も気になっている、鈴村君」
大きく、警部補はうなずいた。
「自殺じゃないのに、”わたし”だなんて、駒沢君は、一体、誰のことを言おうとしたのだろうか」
「どうだ、パズルの得意な鈴村君ならば、わかりそうじゃないのか」
長身の巡査部長が、うながすように発言した。
「関本巡査部長、すみません、わからないんです。パズルは確かに好きですけど、解くよりも、不明で答えを見る
ことが多い、下手の横好きレベルです」
「それが解ければ、すべての謎が解けるのではないでしょうか?」
俺は、三人を見回しながら、
「和代の伝えたかった思いを、きちんと解き明かして、何としてもかたきをとりたいのです。お願いですから、
ご協力をお願いします」
と、反射的に、土下座をして依願した。
「そんなことはやめたまえ、加山君。私情はわかるが、彼女のためにも、犯人逮捕のためには、冷静さを失わないことだ
よ。もちろん、協力は惜しまない」
警部補のやさしい心遣いに感謝しながらも、解決への糸口が見つからないことに、俺は焦りを感じていた。
雨の音は、段々と小さくなっているようだ。
作品名:犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌 作家名:TAKARA 未来