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TAKARA 未来
TAKARA 未来
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犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌

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「気晴らしに、四人で一杯飲みに行かないか」
 関本巡査部長が、容疑者を誘って、本庁から離れた店に行くことになった。
 目の前には、おしゃれな雰囲気を漂わせた、比較的新しい和食の店がたたずんでいた。誘われた時の雰囲気から、
てっきり大衆的な居酒屋だと思い込んでいた俺には、至極意外に感じられてならなかった。
 俺たちは、奥の座敷に通された。

「こんなお店だなんて、随分高そうじゃないですか」
 汗をふきながら、俺の左に座った鈴村が、不安そうに巡査部長に尋ねた。
「確かに高いよ。でも、勘定ならば心配するな。今日は、私のおごりだ」
「関本巡査部長、年齢はともかく、立場上は私の方が上ですから、せめて自分の分だけは出させてください」
 恐縮した様子の愛野警部補が、懇願調で発言した。
「いや、愛野警部補。白状すると、ここは私の知人のお店なんだよ。前々から、絶対来てくれと頼まれていて、今日、
ようやくその約束を果たせて、ほっとしたところなんだ。なおも言えば、私に恩があるからと、無料にするからと、
うるさく言われているから……正確には、店の主人のおごりになる」
「でも、いいのでしょうか?」
「後で、多少はお金を出しておくがね」
 
 律儀そうな主人が現れ、丁重なあいさつをしてから、順々に料理が運ばれてきた。
「さあ、遠慮なく!」

 一通り、料理が進んできたところで、巡査部長はアルコールを含んだ顔で、今日の趣旨を説明し始めた。

「我々は、残念なことに容疑者扱いになっている。こんなことは、長い刑事人生で初めての屈辱だ。だから、それを忘れ
て飲もう……ではない。捜査からはずされている、我々自身で、お互いに情報交換をし合って、早く事件解明をしようと
考え、この機会を設けたんだ」
「関本巡査部長は、この中に犯人がいない、と考えているのですか」
 今夜は、一滴も酒が受け付けられず、お茶ばかり飲んでいる俺は、左前に座る巡査部長の顔をのぞきこんだ。
「そうあってほしい、と思っている」
「ありがたいことです」
 俺は、深々と頭を下げた。
「確かに、誰も犯人を見ていない以上、現場に最初に駆けつけた、この俺が真っ先に疑われても仕方がないのに、う
れしい限りです」
「加山君、我々が上がる前、二階に怪しい人物がいたような雰囲気は、感じなかったか?」
 正面の警部補が、真面目な口調ながら、対照的に赤い顔色をしたまま、酒臭い息を吐いて尋ねた。
「残念ですが、感じませんでした」
「加山と入れ違いに、誰かが階段をひそかに降りた可能性はないでしょうか」
 こちらも、警部補に負けずに赤い色の鈴村が問う。
「それはいない。もし、いたならば、私の目に触れていたよ、鈴村君」
 と、愛野警部補が回答した。
「じゃあ、ベランダから桜の枝をつたい、庭に降りて、外にいた刑事に見つからないトリックを使って、いずこかに
逃げたんじゃないでしょうか」
「そんな、ミステリーの世界のようなことばかり言っている間は、まだまだ若造だと言われるよ、鈴村君」
 警部補は、コップの冷酒を一気に飲み干した。
「離婚問題もあって、ずっと禁酒していたから、不謹慎だろうが、実にうまいね。名のあるお酒だろうな。……
実際に捜査に携わっている、栗巣警部と阿賀佐警部から、毎日、私と関本巡査部長はそろって報告を受けているのだが、
それに寄ると、何か物理的なトリックを使ったような痕跡は一切みられないそうだ。それも、我々が疑われている原因
らしい。事前にあの廃屋に、トリックを仕掛けることも難しいだろう。また、仕掛けていたとしても、犯行後に隠すこ
とは不可能だと判断されている、両警部に」
「このメンバーの中で、外にいたのは俺だけですが、反対側の裏庭にいたので、ベランダから降りた奴がいたとして
も、その瞬間を目撃することは無理でした」
 悔しそうに、鈴村が言葉を掃き出した。

 まだなお、和代への思いが残っているのだろうか?