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TAKARA 未来
TAKARA 未来
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犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌

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「最近は、泳ぎに行かないのかね、加山君」
 本庁に戻り、午後の聞き込みの報告を終えた時、愛野警部補は何気なく俺に聞いてきた。
「このところは、スポーツクラブに行っていません」
「元水泳部の君も、それじゃあ、体がなまるだろう。プライベートなことだが、気分転換も兼ねて、たまには
行くことを勧めるよ」
「はあ……」
 なぜ、こんなことを言い出したのだろうか、警部補は。
「若さは羨ましい輝きだ。君との十年の差は、大きい。君や、鈴村君のように、パソコンやメールも今もって、両手で早く打てない。
教えてもらわないといかんな」
「慣れればすぐですよ」
「ありがとう。俺も、いろいろあって、気分が滅入っているところだ。俺が選手だった、走り幅跳びのクラブでもあれば、通うところだがな」
 何か、俺に伝えたいことがありながら、なかなか本題に入ることを躊躇している顔色だ。ここは、相手のペースに
合わせていこう。
 相手に巧みに合わせながら、本音を聞き出すことが、捜査において重要であると、関本巡査部長が常々俺に言っ
ていることを思い出した。
「先日から、君達に心配をかけていた、家内との離婚調停も、昨日無事にまとまったよ。慰謝料がかかることは憂鬱
だが、これで気分を改めることができる。迷惑をかけず、仕事に集中できるから、安心してくれ」
 愛野警部補は、この一年間、離婚調停で悩まされていた。そのため、俺と和代が結婚する日程が決まった場合、自身
の問題が未解決中ならば、縁起でもないので、披露宴には出席しないと言っていたことが、記憶によみがえった。
 解決……しかし、出席をお願いする披露宴は開かれない。

「ところで……」
 警部補は、声をひそめながら、俺に顔を近づけた。
「以前のことだが、駒沢君と鈴村君が、付き合っていたことは知っているかい?」

 俺の口の中に、カフェインの苦味が広がった。先ほど飲んだコーヒーが、胃袋から逆上してきたのか。
「……初耳です」
 絞り出した声は、蚊の音にも負けている。
「こんなことを言うべきではないと、俺も承知している」
 椅子に座ったまま、愛野警部補は続けた。出っ歯のため、笑っているようにも見える。
「俺も他の人間も、彼女と鈴村君が、ニ年前まで恋人だったことは知っていた。でも、その後何があったか知らないが、
いつのまにか別れて、君と付き合い始めていた。君と駒沢君がうまくいっており、鈴村君と君との友情もあり、我々
からは、その件は触れないようにしていたんだ。君が、前にニ人が付き合っていたことを、知らないように思えたから
……すまなかったな」
 警部補は、俺を見上げて、同情するように、
「ただ、もし、そのことが今回の事件解明に関係あればと思い、無神経を承知で確認させてもらうため、あえて口に
してみた」
 自分の太い眉毛が、けいれんしているのを感じた。
「関係ないかもしれん。少なくても気にしないといけないのは、我々二人が聞いた、ダイイング・メッセージだろう」
「和代の言った……?」
 俺は、やっとの思いで声を振り絞った。
「そうだ、加山君。”犯人はわたし”の意味がわかれば、真相が解明するのではないかな」

 雨足が強くなってきた。……