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TAKARA 未来
TAKARA 未来
novelistID. 29325
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犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌

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「何だか、周りの視線が、冷ややかに感じられるよ」
 助手席の関本巡査部長が、ため息混じりに嘆いた。
 和代殺しの捜査からはずれているものの、四人とも謹慎処分になっている訳ではない。午後から、別件の聞き込み
のため、俺は関本巡査部中と車で出かけていた。
「俺も同じですよ、関本巡査部長」
 小雨混じりの中、運転に注意しながら、俺は同意した。
「あの状況では、俺が真っ先に疑われても仕方ないですがね。まだ、後で駆けつけた巡査部長の方が、風当たりは弱いと
思いますよ」
「それはわからんよ。栗巣警部も阿賀佐警部も、事実関係が確定するまで、我々を今までと同じように接するようにと
みんなに伝えてくれている。だが、人間の腹の中までは、この年齢になってもわからない。どことなく、他人行儀の
ような気が……思い過ごしならいいが」
 さりげなく左を見ると、関本巡査部長の眉間に、深いしわが刻まれていた。
「加山君、我々以外に犯行が不可能だとしたら、返り血の問題はどうなると思う? 誰も着替えていないし、もちろん
血の付いた服なども発見されていないそうだ」
「俺にはわかりません。……そうだ、細かく刻んで、水に流したことは考えられないのでしょうか?」
 巡査部長は、重々しく首を横に振った。
「それについては、すでに捜査済みで、全くそんな痕跡はないそうだ。俺と愛野警部補が、今朝、楠花警部に確認
している。排水管も調査しても、ルミノール反応も切れ端もなく、周辺に風船などにくくりつけて飛ばした様子も
みられないらしい」
「弱りましたねえ」
「全くだ。……そうそう、ここだけの話だが、今回の件が解決したら、俺は、退職しようと思っているんだ」

 俺は、驚きのあまり、運転を誤りそうになった。
「おい、加山君、気をつけたまえ。こんなところで、君と心中したくはないよ」
 苦笑する関本巡査部長。
「まだ、お若いじゃないですか。こんなことに負けたら駄目ですよ。俺みたいな若造が言うのも生意気でしょうが、
反対します、絶対。いつも、やさしく俺達若手に声をかけてもらい、鈴村の奴も感謝しているんですよ」
「ありがたい言葉だ。感謝するよ。……だが、もう決めたことなんだ」
「どうしてですか」
「今回の事件の前から、女房から言われていることがあってね。刑事は危険な仕事だから、給料の問題ではなく、早く
やめてほしいと」
「しかし、関本巡査部長は、刑事が天職だと、よく酒の席で、おっしゃているじゃないですか」
 巡査部長は、利き腕の左手――そう言えば、四人の容疑者の中で唯一の左利きだった――で頬をかいた。
「天職かもしれん、刑事は。だが、俺にも別の夢がある。女房も協力してくれると言っている」
「どんな夢ですか?」
「レストランオーナーだよ」
 関本巡査部長は真顔だった。
「調理師の資格を、俺が持っていることは知っているだろう? 女房もその資格があり、子供も独立したから、二人で店を持ち
たいんだ。だったら、これがいいきっかけではないか、と思ってな」
「大変じゃないですか、一から行うのは」
「夢の実現に向けて努力するさ。開店資金はまだ足りないが、俺が店を開くなら、学生時代のバスケットボール部の仲間も
応援してくれるそうだ」
 心中を吐露した長身の巡査部長は、晴れやかな表情を浮かべていた。
 窓の外では、依然として小雨がやみそうにない。