犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌
和代が死んで二日後、現場検証及び科学検査の結果、さらに次のことが明らかになった。
俺たち四人は、立場上、捜査からはずされているが、報告だけは受けることになっている。
俺は、何が何でも嫌疑を晴らしたい。
≪ベランダ関連≫
◎犯行現場のベランダから飛び降りた場合、何らかの怪我は避けられない高さである。四人の中に、怪我をしている
者がいないことは、取調べ直後の身体検査で裏づけされている。
◎犯行現場から脱出するには、俺が入ったドア以外、ベランダに伸びている桜の枝につかまって降りる他、
方法はありえないことが、周辺の検証の結果で明らかになっている。
◎実験の結果、桜の枝が耐えうる重量は、約80キロまでであった。これは、鈴村以外の三人ならば耐えられる
重さである。枝にこすれた跡はあるが、古いものであり、犯行時についた痕跡はない。
◎ベランダの掃き出し窓には、判別不可能な古い指紋しかついていなかった。
◎これ以外の二階の窓には、すべて鍵がかかっており、その鍵の錆び付き状況から、国税局管理後に開閉された
様相はない。
◎ベランダから桜の木を伝って、庭におりた場合、周辺にいた刑事の誰からも死角になっていて、この方法
が行われたか否か、目撃証言はない。また、ベランダ手すりに、ロープなどがくくりつけられた痕跡はない。
◎ベランダに通じる、掃き出し窓の鍵が錆びていて、それを開ける時には多少の音がするが、その音に気がつい
た者はいない。
≪犯行室内≫
◎室内に荒らされた形跡はない。
◎和代の拳銃に、発射された形跡は全くない。
◎室内のベッドの中は空間になっており、そこに覚せい剤などが隠されていたものと推定されている。
◎クローゼットの中に、顕微鏡でなければ見えない、微量の覚せい剤が落ちていた。それは、犯行より少なくても1週
間以上前のものと判明した。
◎ベッドのシーツも色あせたものだが、今回の犯行に使われた痕跡は一切ない。
≪周辺報告≫
◎建物周囲・敷地周囲に、何も犯行に関連する遺留品は発見されなかった。
◎建物に隠し部屋・屋根裏部屋はなかった。
◎鈴村が調べた物置に、長さ10m近くの古いロープの束・鎌・錆び付いたはしごがあったが、今回の犯行で使用
された形跡はなかった(蜘蛛の巣が張られていた)。
◎その物置は、犯行現場のベランダと反対側の裏庭にあり、殺害者が庭に降りたと仮定しても、鈴村に見られる
可能性は薄い。従って、誰にも見られず、ベランダから降り、再び玄関に舞い戻って、急ぎ階段を使用して、犯行現場に
合流することは可能であった。
◎トイレ・浴室・洗面・キッチンの水回りについて、少なくても国税局管理後、犯行当日も含め、水が使用・
排水された形跡は全くなかった。
◎一つしかない階段は歩くと音がするが、そっと進めばほとんど音をせずに上がることは可能である。
≪犯行関連≫
◎凶器のナイフに、指紋はついていない。どこにでも売っている物で、その入手先は不明である。
◎刺された直後から、和代の血があふれ出ていることがわかっている。返り血をどのように防いだのか、全く不明
であり、その点も両警部を悩ませ、俺が容疑者からはずれない理由にもなっているようだ。
◎四人の誰もが、犯行直後、何か証拠品を簡単に隠す時間はあった。しかし、その場合、今も発見されない方法
や場所まで隠すことは不可能である。従って、誰も何も処分していないものと捜査陣は推定している。
≪容疑者関連≫
◎俺を含めたいずれも、お金の使い方に怪しい点はなく、銀行口座に不明な入金もない。
◎あの建物の中で、和代から連絡のあったのは、俺へのメールのみであることが判明した。彼女のバッグに入って
いた、ピンク色の携帯電話の履歴等について消されたのはいずれも殺された前日以前のものであった。
◎俺が、和代の変事をメールした4時10分には、全員が単独行動をとっていた。また、そのメールを三人とも、
正しく着信している。
◎周辺聞き込みその他の状況から、犯人は、我々四人のいずれかの単独犯行であると判明している。
作品名:犯人はわたし?~加山刑事の捜査日誌 作家名:TAKARA 未来